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また、1992年リオで開かれた地球サミットは「持続可能な開発」を宣言し、行動計画アジェンダ21を採択しました。これらにより、人類及び世界の国々が海洋の開発、利用、保全に取組む共通の枠組みとルールができ、海洋管理への取組みが地球規模でスタートしたのです。それまでは海のことは、狭い領海の外側の広大な海洋を誰でも自由に開発、利用できる「海洋の自由」が基本でした。これからは、人類の重要な生存基盤である海洋の開発、利用、保全を総合的に管理し、海の恩恵を将来の世代に引き継いで行く「海洋管理」が基本になったのです。

海洋法条約は、沿岸国に200海里までの排他的経済水域における天然資源などについての主権的権利や管轄権を認める一方、海洋環境の保護や保全の管理義務を課しています。このため、各国は、海洋管理の法律の制定、海洋政策の策定、これらを推進するための行政・研究組織の新設・統廃合、広範な利用者の意見を反映する手続きの制定などを行い、沿岸域をはじめすべての管轄海域の総合的な管理に熱心に取り組み始めました。また、海洋の研究や海洋管理の進め方を巡って、政府機関、NGO、研究者等様々なレベルで国際会議やインターネットを通じての交流が活発に行なわれています。

ひるがえってわが国はどうでしょうか。わが国は、周囲を海に囲まれ、世界で6番目の排他的経済水域を持つ、自他共に認める海洋国です。造船、海運、水産、科学技術などは世界のトップ水準にあります。しかし残念ながら、海洋のパラダイムが「海洋管理」へと大きく転換したという認識が何故か薄く、海洋問題への総合的な取組みという点で各国に比較して立ち遅れていると言わざるを得ません。総合的な海洋政策の策定もなく、広く関係者が参加して海洋の開発、利用、保全を総合的に調整する手続きも定めていません。このような状況のままで海洋行政が10以上の省庁に細分されていては、総合的な海洋管理を推進するのは困難です。また、非政府部門の活動や研究にも行政の垣根が分断の影を落としていて、こちらも総合的取組みはもう一つ盛り上がりを欠いています。

国連は、昨年11月の第54次総会で海洋問題への総合的な取組みの重要性を強調する重要な決議をしました。即ち、海洋問題及び海洋法について毎年国連総会でレヴューすることの重要性を認め、国連海洋法条約およびアジェンダ21の第17章の枠組みの下で、総会における海洋問題の進展についてのレヴューを効果的かつ建設的に行うために非公式協議プロセスを設置することを決定したのです。相互に密接に関連する海洋の問題を包括的に議論できるのは国連総会しかないという共通認識に基づくものです。その非公式協議プロセスの第一回は5月30日から6月2日にかけてニューヨークで開催されましたが、このように国際的にどんどん進展していく海洋管理への取組みにわが国はどう対応していくのでしょうか。このままでは、総合的な取組み体制が整っていないために、国連の場ばかりでなく国際会議やインターネットを通じて急速に構築されつつある海洋管理の国際ネットワークからも取り残されてしまいます。早急に政府、民間部門の総力をあげて海洋管理への取り組みを強化する必要があります。

考えてみればわが国は、第2次世界大戦の苦い経験とその後の冷戦時代の中で海洋を政策課題として取り上げることを避けてきて、今となってはそれが当たり前となっているのかもしれません。しかし、この半世紀の間に人類と海との関係は大きく変りました。私たちは、海洋のパラダイムが転換したことを自覚して、21世紀にふさわしい海洋政策の早急な樹立を目指さなければなりません。わが国の管轄海域を、海洋法条約に従い、また、日本国民の共同財産して、総合的に管理するにはどうしたらよいか真剣に考えるべき時です。

本研究セミナーは、海洋問題に関心を持つ有志の方々にお集まり願い、わが国で未だ取組みの遅れている海洋管理について理解を深め、今後の望ましい海洋管理の方策について自由闊達な意見交換を行うために企画しました。これを契機にわが国でも海洋管理について活発な議論が展開されるようになることを期待します。研究セミナーは、今回に引き続き本年中に第2回を開催する予定です。本研究セミナーを、皆様の研究や活動に活用していただきますよう願い申し上げまして私の挨拶とさせていただきます。

ありがうございました。

 

 

 

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