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1999年(平成11年)

平成11年函審第48号
    件名
作業船第五能登丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年12月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、酒井直樹、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第五能登丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機及び発動機付きエアーコンプレッサーなどに濡れ損、前部甲板オーニングが破損

    原因
荒天準備昨業(船体着氷雪に対する配慮)不十分

    主文
本件転覆は、港湾改修工事船団の荒天準備作業を行う際、潜水作業船の船体着氷雪に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
船団の運航管理者が、第五能登丸を物揚場に上架するよう船長に進言しなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月20日04時15分
北海道瀬棚郡北檜山町鵜泊(うどまり)(太櫓(ふとろ))漁港
2 船舶の要目
船種船名 作業船第五能登丸
全長 11.64メートル
幅 2.26メートル
深さ 0.64メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 33キロワット
3 事実の経過
第五能登丸は、主として港湾工事の潜水作業に使用されている一層甲板型のFRP製作業船で、上甲板上は、船首から順に、船首楼空所、高さ約1メートルのビット、長さ約4メートルの前部上甲板、同甲板の中央に高さ11.0センチメートル(以下「センチ」という。)のハッチコーミング、船体中央の少し前方に機関室囲壁及び操舵室、その後方に長さ約3メートルの後部上甲板があり、操舵室後方に高さ11.0センチのハッチコーミング、船尾端付近の両舷に高さ約70センチのビットが各1本立てられ、前部上甲板下は、船首から順に、空所、1板船倉、空所となっており、機関室囲壁及び操舵室下部が機関室、後部上甲板下は、中央が2番船倉で、その左右が燃料油タンク、船尾の中央が舵機室、その左右が空所となっており、各ハッチには締め付け装置のない深さ16.0センチのプラスチック製さぶたが備えられ、船体中央部の高さが約50センチのブルワークが上甲板周囲に巡らされ、その基部には片舷5個の放水口が設けられていた。
前部上甲板両舷側には、ブルワークに沿って各3本の角材のオーニング支柱を立て、その上端に角材の船縦及び船横オーニングレールを取り付け、船横オーニングレールの中央上部に高さ約20センチの棟木を立て、その上端に船縦オーニングレールを取り付けて屋根形とし、その重量が約30キログラム(以下「キロ」という。)で、その上面に長さ約3.8メートル、幅約2.5メートル、重量約10キロの防水綿帆布製オーニングを張り、右舷側後部オーニング支柱から船首方にかけて、ブルワーク上に長さ180.0センチ、高さ75.0センチの合板を立てて波除け板とし、前部上甲板を潜水士の休憩場所としていた。
また、潜水作業設備として、機関室囲壁前部の上甲板上に架台を設けて重量約70キロのエアータンク1個及び後部上甲板上のハッチ後方に架台を設けて重量約110キロの発動機付きエアーコンプレッサーが設置され、積載物として、1船倉に総重量約90キロの予備ロープ、潜水服及び付属品並びに横傾斜調整用コンクリートバラスト、2番船倉に総重量約30キロの予備ロープ及び蓄電池が格納されていた。

ところで、鵜泊(太櫓)漁港は、渡島半島西岸に位置し、陸岸から西方に約100メートル延びる西防波堤とその北方の弁天岬から南南西方に約170メートル延びる海面上高さ約3.7メートルの北防波堤によって囲まれ、各防波堤先端の間が南南西方に開いた約40メートルの出入口となり、北防波堤の基部から東南東方に延びる長さ約85メートルの船揚場とその東南東端から西防波堤の基部にかけて南方に延びる長さ約100メートルの物揚場が設けられていた。
B指定海難関係人は、株式会社Rの港湾建設工事の現場責任者の職務にあり、工事期間が平成9年12月3日から同10年3月25日までの鵜泊(太櫓)漁港高度利用活性化対策工事を担当し、第五能登丸のほか、これと同型の潜水作業船第三能登丸、台船1001能登号(以下「台船」という。)及び船外機付き交通船1隻などの船団と物揚場に備えた重量クレーン車1台の運航管理に当たっていた。

台船は、長さ38.0メートル、幅13.0メートル、深さ2.5メートルの、起重機及び居住区を備えた非自航の鋼製箱型台船で、第三及び第五能登丸の上架台を備え、港湾建設工事場所を移動するときは両作業船などを載せてえい航されていた。
B指定海難関係人は、平成9年12月20日第五能登丸のほか第三能登丸などを台船に載せ、江差港から瀬棚港を経由して同月23日鵜泊(太櫓)漁港に運び、冬季には同漁港を使用する船舶がいなかったことから、その後波浪が浸入するのを防ぐため出入口を消波ブロックで塞ぎ、第五能登丸のほか第三能登丸などを物揚場に上架して年を越し、平成10年1月12日工事を再開した。
A受審人は、平成8年4月株式会社Rに作業員として雇用され、台船に乗り組んでいたところ、四級小型船舶操縦士の免状を取得しているうえ、操船の経験があることを見込まれ、同9年4月ごろB指定海難関係人から第五能登丸の船長に任命され、その操船に当たっていた。

こうして、B指定海難関係人は、同10年1月16日第五能登丸と第三能登丸を港内に降ろし、潜水作業に従事させていたところ、翌々18日午後から南西風が強まり、荒天となってきたため、両船の作業を中止させた。
A受審人は、第五能登丸を船揚場の斜路から約30メートル、北防波堤から約20メートルのところに船首を南南西方に向け、左舷錨を投じて単錨泊させたのち、船揚場の斜路に設置された係留索用リング及びコンクリートブロック、港内南寄りの海底に設置された係留索用コンクリートブロックを用いて船首右方に1本、船尾に2本の直径28ないし35ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化学繊維製係留索(以下「係留索」という。)を35ないし40メートルの長さに取って係留し、第三能登丸を第五能登丸の左舷側約15メートルのところに同様に係留し、その後、B指定海難関係人らとともに陸行して瀬棚港に係留中の大型台船の居住区に戻った。

翌19日06時ごろB指定海難関係人は、電話で天気予報を聞き、風雷波浪注意報が発表され、同日15時の予報として毎秒18メートルの西風が吹き、波高5ないし6メートルとなることを知り、第五能登丸と第三能登丸を使用せずに、台船による掘削作業のみを行うこととし、07時10分A受審人ほか数人の作業員とともに瀬棚港の大型台船を発し、乗用車で鵜泊(太櫓)漁港に赴き、07時30分第五能登丸、第三能登丸及び台船の荒天準備作業を開始した。
このころ、北海道付近は、発達した低気圧が東進中で大陸から優勢な高気圧が張り出し、冬型の気圧配置となり、檜山地方には、前日の20時45分風雷波浪着氷注意報が発表されていた。
A受審人は、第五能登丸の荒天準備作業を行うに当たり、船体着氷雪に対する配慮が不十分で、係留索を増し取りして港内に停泊させておけば大丈夫と思い、降雪と防波堤を越えて飛来する波しぶきが船体に着氷雪して頭部過重とならないよう、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架せず、前日から係留しておいた地点で、更に船首に2本、船尾に2本の直径28ミリないし35ミリの係留索を増し取りし、喫水が船首0.75メートル船尾0.95メートルの状態で船固めし、その後、第三能登丸も第五能登丸と同様に船固めした。

B指定海難関係人は、船体着氷雪に対する配慮が不十分で、荒天準備作業を開始した際、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架するようA受審人に進言せず、台船の掘削作業を行わせていたところ、19日12時ごろ聞いた気象情報で今後更に天候が悪化することを知り、午後の台船の掘削作業も中止させ、台船の前部を北方に向けて物揚場とほぼ平行に、物揚場から約15メートル、西防波堤から約20メートル離し、四方から直径80ミリの係留索を各2本ずつ取って船固めをし、同日16時ごろ荒天準備を終えてA受審人とともに瀬棚港の大型台船に戻った。
A受審人は、18時ごろB指定海難関係人ほか1人と乗用車で鵜泊(太櫓)漁港に赴き、乗用車のヘッドライトを向けて船舶の係留状況を点検したが、とくに異常が認められず、22時ごろまた3人で赴いたときは、風が少し強くなっていたが、係留索も第五能登丸も変化がなかった。翌20日00時ごろ更に点検に赴いたところ、波しぶきは前より多くなり、第五能登丸が右舷側に少し傾斜しているようであったが、降雪のためよく見えず、たいして変化がないようなので、瀬棚港の大型台船に戻って休息した。

第五能登丸は、夜半過ぎから気温が氷点下に下がり、更に強まった降雪と北防波堤を越えた波しぶきにより、オーニング上部、操舵室上部、右舷側波除け板及び後部上甲板の右舷側に大量の着氷雪を生じ、頭部過重の状態となって右舷側に大傾斜し、04時15分西防波堤先端中央部から真方位003度、75メートルの地点において復原力を喪失して転覆した。
当時、天候は雪で風力7の西北西風が吹き、風雪波浪着氷注意報が発表中であり、潮候は上げ潮の中央期で、港内は波が高く、気温は摂氏マイナス約5度、水温は摂氏プラス約7度であった。
鵜泊(太櫓)漁港の株式会社R工事事務所に宿泊していた社員は、05時半ごろ港内の様子を見に行き、暗かったので乗用車のヘッドライトで見渡したところ、第五能登丸が転覆しているのを認め、急ぎ電話で瀬棚港の大型台船のB指定海難関係人にその状況を知らせた。

B指定海難関係人は、知らせを受けてA受審人とともに鵜泊(太櫓)漁港に赴き、転覆している第五能登丸を認め、風波が収まるのを待っていたところ、同船の着氷雪が溶け、空所及び船倉内に残された浮力により、10時ごろ係留地点において係留状態のまま復原した。
転覆の結果、主機及び発動機付きエアーコンプレッサーなどに濡れ損を生じ、前部甲板オーニングが破損したが、のち主機は換装され、その他の機器及び同オーニングは修理された。


(原因)
本件転覆は、冬季、北海道渡島半島西岸鵜泊(太櫓)漁港において、風雪波浪着氷注意報の発表下、港湾改修工事船団の荒天準備作業を行う際、潜水作業船の船体着氷雪に対する配慮が不十分で、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架せず、防波堤内側附近に無人のまま係留していたため、降雪と防波堤を越えて飛来した波しぶきが同船の前部上甲板オーニング上に船体着氷雪して頭部過重となり、復原力を喪失したことによって発生したものである。
船団の運航管理者が、荒天準備作業を行う際、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架するよう船長に進言しなかったことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、冬季、北海道渡島半島西岸鵜泊(太櫓)漁港において、風雪波浪着氷注意報の発表下、第五能登丸の荒天準備作業を行う場合、降雪と防波堤を越えて飛来する波しぶきが同船の前部上甲板オーニング上に着氷雪して頭部過重となるおそれがあったから、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船体着氷雪に対する配慮が不十分で、同オーニング上に少しくらい着氷雪しても頭部過重になることはあるまいと思い、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架しなかった職務上の過失により、降雪と防波堤を越えて飛来した波しぶきが防波堤内側付近に係留していた同船の船体上部及び前部上甲板オーニング上に着氷雪し、復原力を喪失させて転覆を招き、主機及び発動機付きエアーコンプレッサーなどに濡れ損を生じさせ、前部甲板オーニングを破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、冬季、北海道渡島半島西岸鵜泊(太櫓)漁港において、風雪波浪着氷注意報の発表下、潜水作業船の荒天準備作業を行う際、船体着氷雪に対する配慮が不十分で、台船の起重機、物揚場の重量クレーン車などを使用して第五能登丸を物揚場に上架するよう船長に進言しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。






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