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1999年(平成11年)

平成10年広審第12号
    件名
作業船第十あや丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷奬一、黒岩貢
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第十あや丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関にぬれ損

    原因
操船・操機不適切(曳航索の係止措置)

    主文
本件転覆は、引船によるはしけ曳航を補助し、被引はしけを横抱きして進行する際、曳航索の係止措置が不適切で、被引はしけに横引きされる状態となり、復原力を喪失したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月26日06時40分
広島湾早瀬瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 作業船第十あや丸
全長 10.01メートル
幅 3.40メートル
深さ 1.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 176キロワット
3 事実の経過
第十あや丸(以下「あや丸」という。)は、主に広島湾江田島、東能美島、西能美島沿岸で就業する、船首から船尾まで同幅の平型甲板を備えた鋼製作業船兼交通船で、引船第八あや丸が行う、長さ60メートル幅16メートル深さ4.3メートルで、川砂1,200トンを積載して船首尾とも約2メートルの喫水となった鋼製はしけNo2菱和号(以下「菱和」という。)の曳航を補助する目的で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、菱和を長さ約60メートルの曳航索で引いた第八あや丸とともに、平成9年4月26日06時05分広島県江田島町秋月の係留地を発し、早瀬瀬戸を経由して同県沖美町能美金属工業団地の揚地に向かった。
ところで、第八あや丸による菱和の曳航は、従来、他船の補助なしで行われていたが、今回は、菱和の積載量が通常より約200トン多かったうえ早瀬瀬戸通過が逆潮時にあたり、菱和が、その付近で潮流の影響により左右へ蛇行を繰り返すことが予測されていたことから、初めてあや丸が補助に当たることとなった。
こうしてA受審人は、菱和を横抱きして曳航を補助することとし、発航後まもなく同船の右舷最前部に接舷し、前麦各1本の曳航索をハの字型にとるよう、前方の曳航索として、直径40ミリメートルのマニラロープを、菱和の船首端中央部にあるビットから船首右舷端のフェアリーダーを介し、自船の船首甲板中央部で水面上高さ約1.5メートルのクロスビット部にとり、また後方の索として、同径の合繊ロープを、菱和の右舷船側で船首後方約11.5メートルにあるビットと自船の船首後方約8メートルで船尾甲板中央部にあるクロスビット間にとりそれぞれ係止したが、前方にとったマニラロープが長くかつ扱いにくかったこと、作業を1人で行ったことなどから、前後の索を張り合わせ弛みをとるなどして適切に係止することなく横抱き状態とした。
その後A受審人は、機関を全速力前進にかけ、第八あや丸とトランシーバーにより連絡をとりながら後部甲板に立って舵輪を操作し、菱和の船側に密着するよう同船を引き、後方の曳航索は船尾左方約30度の角度に一杯に張り、前方の同索はほぼ左舷正横に約2メートルの長さが弛んだ状態となって、第八あや丸とともに4.8ノットの曳航速力で、早瀬瀬戸に向け南下し、06時32分大柿港引島防波堤灯台から144度(真方位、以下同じ。)1,270メートルの地点で、第八あや丸に合わせて針路を176度とし、同速力のまま、同瀬戸中央部に向け進行した。
06時40分少し前A受審人は、早瀬瀬戸最狭部まで約200メートルの地点に差し掛かり、菱和が逆潮流の影響を受け右方に大きく蛇行し、続いて左方に振れ始めたとき、左舷前方に視認していた反航中のかき筏を引いた引船列への接近が気になり、菱和を全速力で引いていると左偏する傾向があったことから、少しでも左方への移動を軽減しようと機関を1.5ノットの微速力に減じた。
その直後、あや丸は、前方の曳航索に弛みがあったことから菱和の船側に沿って後退し始め、約1メートル下がったとき、船尾左端が同船船側に装備されていた大型タイヤ製フェンダーに食い込むように接して後退が止まり、同時に船首前部が菱和の船側から離れ、その距離が約2メートルとなったとき、同索がほぼ左舷正横に張り詰め、当時左前方約45度の方向に蛇行していた菱和に、復原力を越えて横引きされる状態となり、06時40分大柿港引島防波堤北灯台から160度2,400メートルの地点において、瞬時に左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、付近には約2ノットの北流があった。
転覆の結果、機関にぬれ損を生じたが、のち修理され、A受審人は、転覆直前に操舵位置近くのハンドレールに掴まり、あや丸転覆後海面に浮上して救助された。

(原因)
本件転覆は、引船に曳航されている被引はしけ菱和に、曳航を補助するため横抱きの状態に曳航索をとる際、同索の係止措置が不適切で、弛みをとらずに係止し、菱和を横抱きして進行中、減速した際、弛みをとっていなかった曳航索が菱和の蛇行に伴い横方向に張って横引きされる状態となり、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、引船に曳航されている被引はしけ菱和に、曳航を補助するため横抱きの状態に曳航索をとり係止する場合、曳航中に横引き状態にならないよう、前後の曳航索を張り合わせ弛みをとるなどして適切に係止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前後の曳航索を張り合わせ弛みをとるなどして適切に係止しなかった職務上の過失により、菱和を横抱きして進行中、減速した際、菱和に横引きされる状態となり、復原力を喪失して転覆を招き、あや丸の機関にぬれ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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