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1999年(平成11年)

平成11年函審第35号
    件名
漁船栄福丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年12月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:栄福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
氷倉、1番魚倉及び機関室に浸水、沈没

    原因
漁場発航時の荒天準備不十分

    主文
本件遭難は、漁場発航時の荒天準備が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月28日10時25分
北海道江差港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船栄福丸
総トン数 4.8トン
登録長 11.75メートル
幅 2.70メートル
深さ 1.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
栄福丸は、昭和61年に建造された一層甲板型のFRP製漁船で、上甲板上は、船首から順に、船首物入れ、長さ約6メートルの前部上甲板、船体中央の少し後方に機関室囲壁及び操舵室、その後方に長さ約4メートルの後部上甲板があり、前部上甲板下は、船首から順に、氷倉、1番魚倉、2番魚倉となっており、機関室囲壁及び操舵室下部は機関室、後部上甲板下は、中央に蓄電池室とその両舷側に生けす各1倉、船尾中央に舵機室、その両舷側に各1個の物入れがあり、上甲板の周囲に高さ約0.6メートルのブルワークを巡らせ、その基部には片舷5個の放水口が設けられていた。

また、氷倉及び魚倉の上甲板上には、長さ75.0センチメートル(以下「センチ」という。)幅93.5センチ高さ8.0センチのハッチコーミングを設け、1番魚倉ハッチコーミング右舷側とブルワークとの間に延縄のラインホーラー1台を取り付け、生けす及び物入れには約40センチ正方形で高さ8.0センチのハッチコーミングを設け、各ハッチコーミングには締め付け装置のない深さ8.0センチのプラスチック製倉口さぶたを備えていた。
栄福丸は、A受審人が兄のB甲板員と乗り組み、すけとうだら延縄漁業の目的で、縦60.0センチ横39.0センチ高さ10.0センチの亜鉛メッキ鋼板製の箱で、その上縁両端に積み重ね用留め金が取り付けられて重量が約2.5キログラムの魚箱(以下「魚箱」という。)を100個ばかりと延縄用冷凍さんま約70キログラムを載せ、船首0.50メートル船尾1.30メートルの喫水で、平成10年11月28日03時45分北海道桧山郡江差港南物揚場岸壁を僚船とともに発し、05時45分鴎島灯台から301度(真方位、以下同じ。)6.0海里の漁場に至り、西方に向け延縄の投縄作業を開始した。

A受審人は、06時35分鴎島灯台から293度7.2海里の地点で1枚の長さ約60メートルの延縄80枚の投縄作業を終えたのち07時05分前示投縄開始地点に戻り同時15分から揚縄作業を開始し、魚箱に17キログラムばかりの漁獲物を入れながら揚縄作業に従事した。
A受審人は、09時ごろ延縄の3分の2ばかりを揚げたとき、北西の季節風が強まってきたので、前夜に入手した気象情報のとおり、三陸沖を発達しながら東進中の低気圧の影響で北海道の日本海沿岸付近が冬型の気圧配置となったことを知り、同時50分前示投縄作業終了地点で揚縄作業を終え、約1.4トンの漁獲物を80個の魚箱に分けて入れ、魚箱を前部上甲板の最前部から1番魚倉後部までの間に、ほぼブルワークの高さで船縦方向に4ないし5列船横方向に4列、上方に4ないし5段重ねに甲板積みしたころ風雪波浪注意報が発表され北西の風波が更に高まってきた。

A受審人は、北西の季節風が強まれば、帰航時に隆起した高波が左舷船尾方から上甲板に打ち込むおそれがあることを知っていた。しかしながら、同人は、漁獲物の水揚作業を軽減するため、いつも漁獲物を入れた魚箱を甲板積みしたまま帰航していて何事もなかったことから、今回も大丈夫と思い、漁獲物入り魚箱を全て魚倉内に格納し、倉口さぶたとハッチコーミングとのすき間に詰物を入れるなどして固定し、漁具を固縛するなどの荒天準備を行うことなく、漁獲物を入れた魚箱を前部上甲板に甲板積みにして、やや頭部過重の状態のまま、同魚箱の両舷側とブルワークとの間及び各魚箱のすき間に空の木製魚箱を詰めて移動防止とし、これにより氷倉及び1番魚倉の倉口さぶたは圧着されたが、2番魚倉、生けす及び物入れの5倉の倉口さぶたをかぶせたまま固定せず、後部上甲板の総重量約150キログラムの延縄、沈子及び浮子などの漁具を固縛せず、機関室囲壁左舷側の引戸は閉鎖したものの操舵室後部出入口のドアを開放したまま漁場発航準備作業を終えた。
こうして栄福丸は、機関室船底両舷側の燃料油タンクに残油0.8トンを載せ、船首0.59メートル船尾1.31メートルの喫水で、09時52分前示投縄作業終了地点を発進し、針路を鴎島灯台の少し北方に向く105度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、左舷船尾方から受ける風波と折からの南方に流れる潮流により右方に13度ばかり圧流されながら5.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、漁場発航後間もなく前部上甲板に赴いて残りの漁獲物の整理昨業を始めたところ、次第に北西の風波が高まって左舷船尾方から上甲板に波しぶきが打ち上がるようになり、10時25分少し前、同作業を終えて操舵室に入ろうとしたとき、ひときわ隆起した高波が左舷船尾方から上甲板に打ち込み、甲板積みの漁獲物入り魚箱全体が少し右舷方に移動し、後部上甲板の漁具が右舷側ブルワークまで移動し、波により2番魚倉、生けす及び物入れの5倉の倉口さぶたが外れて上甲板に滞留した海水が同倉内に流入し、10時25分鴎島灯台から291度4.5海里の地点において、30度ばかり右舷側に傾斜したまま復原せず、航行不能になった。

当時、天候は吹雪で風力6の北西風が吹き、視界は200メートルに狭められ潮候は下げ潮の初期で、風波が高かった。
A受審人は、急ぎ機関を微速力前進に減じ、手動操舵により右転して船首を風上に向け、甲板積みの魚箱の投棄を試みたが、船体が更に傾斜しながら沈下していくので、危険を感じて付近の僚船に救助を求め、10時35分B甲板員とともに僚船に移乗したが、栄福丸は、僚船にえい航されて江差港に向かう途中、氷倉、1番魚倉及び機関室に浸水し、11時31分鴎島灯台から292度2.5海里の地点において、浮力を喪失して沈没した。


(原因)
本件遭難は、冬季、風雪波浪注意報発表下、北海道江差港西方漁場で延縄漁業に従事したのち同港に帰港するに当たり、漁場発航時の荒天準備が不十分で、漁獲物を入れた魚箱を甲板積みにしてやや頭部過重の状態としたまま倉口さぶたの固定及び漁具の固縛を行わずに帰航中、隆起した高波が左舷船尾方から上甲板に打ち込んだ際、甲板積みの漁獲物入り魚箱及び固縛されていない漁具が右舷方に移動し、波により魚倉、生けす及び物入れの倉口さぶたが外れ、上甲板に滞留した海水が同倉内に流入して右舷側に大傾斜し、航行不能となったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、冬季、風雪波浪注意報発表下、北海道江差港西方漁場で延縄漁業に従事したのち同港に帰港する場合、隆起した高波が左舷船尾方から上甲板に打ち込むおそれがあることを知っていたのであるから、漁獲物を入れた魚箱を魚倉内に格納して倉口さぶたを固定し、漁具を固縛するなどの荒天準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の水揚作業を軽減するため、いつも漁獲物を入れた魚箱を甲板積みしたまま帰航していて何事もなかったことから、今回も大丈夫と思い、漁獲物を入れた魚箱を甲板積みとしてやや頭部過重の状態にしたまま漁具の固縛、倉口さぶたの固定などの荒天準備を行わなかった職務上の過失により、隆起した高波が左舷船尾方から上甲板に打ち込んだ際、甲板積みの漁獲物入り魚箱及び固縛されていない延縄の漁具が右舷方に移動し、波により魚倉、生けす及び物入れの5倉の倉口さぶたが外れて上甲板に滞留した海水が同倉内に流入し、栄福丸を右舷側に大傾斜させて航行不能を招き、他の船倉及び機関室にも浸水して同船を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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