日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年那審第43号
    件名
旅客船ぐすく遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成11年3月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

小金沢重充、東晴二、井上卓
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:ぐすく船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷プロペラ翼曲損及び欠損、汚濁防止膜に損傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件遭難は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月6日14時40分
沖縄県国頭群今帰仁村運天港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ぐすく
総トン数 616トン
全長 66.00メートル
幅 12.80メートル
深さ 6.38メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
3 事実の経過
ぐすくは、沖縄県本部長本部港と同県伊江島伊江港との間の定期航路に従事し、可変ピッチプロペラを装備した2基2軸の二層甲板型銅製旅客フェリーであるが、同県伊是名島仲田港と同県今帰仁村運天港(上運天地区)との間の定期航路に従事していた旅客船の入渠期間、同船の代船として平成10年4月5日から同航路に従事することになったものであり、A受審人ほか9人が乗り組み、旅客76人を乗せ、車両16台を積載し、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、翌6日13時30分その日の第2便として仲田港を発し、運天港(上運天地区)へ向かった。
ところで、運天港(上運天地区)は、港奥の護岸から東南東方に築造された長さ約300メートルの公共岸壁があり、同岸壁の護岸寄りがぐすくの専用岸壁で、また、同港の床堀工事に伴い、ワイヤロープにより固定された汚濁防止膜が公共岸壁の対岸を囲むように同年1月から敷設されていた。当時、公共岸壁の先端側に他の旅客フェリー、中央付近に499トン型貨物船よね丸がいずれも右舷着けで接岸していて、よね丸船首部と同膜との間は約50メートルとなっていた。
A受審人は、所要時間1時間15分のほぼ予定どおりで航行し、着岸配置として船首に二等航海士を、船尾の右舷側に甲板長及び甲板員を、船尾の左舷側に一等機関士及び二等機関士を、そして車両甲板の準備に一等航海士をそれぞれ付け、自ら船橋において遠隔管制器により操舵操船に当たって進行した。
A受審人は、公共岸壁先端側に右舷着けしている旅客フェリーを右舷方50メートルばかりに見て275度(真方位、以下同じ。)の針路及び7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、14時38分船尾が同岸壁南東端を替わったとき、可変ピッチプロペラの翼角を0度として、前進惰力で左回頭を始め、同時38分半180度に向首したとき、汚濁防止膜を右舷方60メートルに見るようになり、そのころ行きあしを止めて舵中央とし、バウスラスターにより船首部を左方に寄せながらよね丸と汚濁防止膜との間の狭い水域に向け、翼魚を調整しながら35ノットの後進速力で進行した。
14時39分半A受審人は、船橋左舷ウインクで操船に当たり、左舷船尾がよね丸の左舷船首まで約20メートルとなったとき、右舷前方からの風により左方へ圧流されることを考慮し、左舵一杯とするとともに機関を微速力前進にかけ、バウスラスターを利用して右方へ寄せようとした。
ところが、A受審人は、寄せ過ぎると汚濁防止膜をプロペラに巻き込むおそれがあったが、よね丸から離すことにのみ気をとられ、右舷船尾の見張員に同膜への接近模様を報告させて同膜との位置関係を確かめるなりして船位を確認することなく、左舷ウイングで左方を見ながら操船していたところ、右舷船尾の見張員から汚濁防止膜が近い旨の連絡を受けたが、14時40分公共岸壁南東端から270度225メートルの地点において、ぐすくは、168度に向首して行きあしが止まったころ、右舷プロペラが汚濁防止膜を巻き込んだ。
当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
その結果、ぐすくの右舷プロペラ翼に曲損及び欠損を、汚濁防止膜に損傷をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件遭難は、沖縄県運天港において、左舷方の岸壁に接岸している他船と右舷方に敷設された汚濁防止膜との間の狭い水域に向け後進中、右舷方へ船位を寄せるにあたり、船位の確認が不十分で、汚濁防止膜に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、接岸中の他船と汚濁防止膜との間の狭い水域に向け後進中、左舷方の他船から離そうと右舷方へ船位を寄せる場合、船橋左舷ウイングにいたのであるから、右舷船尾の見張員に汚濁防止膜との接近模様を報告させて同膜との位置関係を確かめるなりして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船から離すことに気をとられ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、汚濁防止膜に著しく接近し、同膜を右舷プロペラに巻き込み、自船のプロペラ翼に曲損及び欠損を、汚濁防止膜に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION