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1999年(平成11年)

平成11年長審第17号
    件名
漁船海幸丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:海幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関室船底左舷側外板破口、廃船、船長が鼻骨骨折

    原因
錨索の点検不十分

    主文
本件乗揚は、錨索の点検が不十分で、錨泊中に錨索が切断し、陸岸に向かって圧流されたことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月12日23時30分
長崎県五島列島赤島南岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船海幸丸
総トン数 14.10トン
登録長 14.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
海幸丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、深海立はえ縄漁を行う目的で、船首0.50メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成10年8月9日11時00分佐賀県馬渡島漁港を発し、同日20時ごろ長崎県五島列島黄島南方沖合の漁場に至っていったん休息し、翌10日03時から操業を始め、16時に同日の操業を終えたので、同県黄島漁港北方沖合の水深約20メートルの錨地に投錨し、以後、同漁港を基地とする日帰り操業を続けた。
ところで、本船の錨は、全長約1.9メートルの唐人錨で、クラウンの先端から約0.6メートルのところに、ストックと直交する長さ約0.6メートルの爪を左右に取り付けてあり、自重が130キログラム(以下「キロ」という。)であった。また、A受審人は、アンカーシャックルに長さ約2メートル、重さ約30キロのチェーンの一端を取り付け、チェーンの他端に錨索として直径18ミリメートル(以下「ミリ」という。)のポリエステル製ロープを大錨結びにしていたが、錨の効きが良すぎて根がかりを頻繁に生じ、爪が折れたり、錨索が切れたりするので、3箇月ばかり前の5月初めに入渠した際、根がかりを防止するため、錨のクラウン部分から左右の爪の中ほどにかけて鋼製板を取り付けてあった。

ところが、A受審人は、錨に鋼製板を取り付けた分重量が増加し、ウインチでの揚錨が困難となったところから、チェーンを取り外し、使用中の錨索を振り替えてアンカーシャックルヘ直接大錨結びとし、シャックルの先端から約1.2メートルのところの錨索に、同索の先端部をスパイクで編み込み、編み込んだ部分を直径約5ミリの細索で約10センチメートルにわたって巻き締めてあったが、同部分については、まさか切断することはあるまいと思い、細索を巻いた表面を目視するだけで、同部分の点検を十分に行っていなかったので、いつしか編み込んだ部分の上端が傷んで切断し始めたことに気付かなかった。
越えて12日02時ごろA受審人は、天候がしけ模様となって出漁を中止し、黄島漁港港外で錨泊待機中、うねりと風浪で船体動揺が激しくなってきたので、同漁港内に移動することにし、07時45分揚錨して08時同漁港北側岸壁に着岸したものの、その後、同岸壁に多数の猫が徘徊(はいかい)するようになり、すでに餌としてはえ縄に付けていたさんまの切り身を猫に食べられるおそれがあったところから、14時15分同岸壁を離れて同時30分黄島灯台から345度(真方位、以下同じ。)980メートルの、水深約20メートルの地点に至り、左舷船首から投錨し、錨索を約50メートル延出して錨泊を始めた。

海幸丸は、A受審人が操舵室内で守錨当直中、南西方からのうねりと風波によって翻弄(ほんろう)されているうち、錨索の編み込んだ部分の切断がさらに進行したものの、風力も弱くなり、近くの錨泊船との相対位置関係にも変化を生じなかったところから、同人がもう走錨などのおそれはないものと思い、22時00分自室に戻って休息中、23時00分ごろ錨索が切断し、折からの北東方へ流れる潮流と南西風とで赤島に向けて圧流され、23時30分黄島灯台から035度3,500メートルの地点に、船首をほぼ西に向けた状態で乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は高潮時で、北東方へ向かう約1ノットの潮流と、南西方からの約2メートルのうねりがあった。
乗揚の結果、機関室船底左舷側外板に長さ約3メートル幅約1メートルの破口などを生じ、廃船とされた。また、A受審人は、磯波による船体動揺で鼻骨骨折などを負った。


(原因)
本件乗揚は、大錨結びとした錨索先端の編込み部に対する点検が不十分で、長崎県五島列島黄島漁港沖合で錨泊中、同部の上端が切断し、折からの風潮流で北東方の赤島に向けて圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人が、大錨結びとした錨索の編込み部の点検を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、同人が使用中の錨索を振り替えて間がなかったうえ、錨索の切断箇所は細索で巻かれていて点検が困難な場所であった点に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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