日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年長審第42号
    件名
押船那智丸被押はしけバージ7号乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年11月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:那智丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
那智丸・・・船底外板に擦過傷
バージ・・・船首船底部外板に破口、船底全体に凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月25日05時20分
長崎県西彼杵群野母崎町樺島
2 船舶の要目
船種船名 押船那智丸 はしけバージ7号
総トン数 199.85トン
載貨重量トン数 1,606トン
全長 62.00メートル
登録長 27.00メートル
幅 8.40メートル 14.50メートル
深さ 3.80メートル 5.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,470キロワット
3 事実の経過
那智丸は、専ら被押はしけバージ7号(以下「バージ」という。)とともに海砂採取運搬に従事する鋼製押船兼引船で、船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み、船首2.00メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、船首部にクレーンを装備し、空倉で海水バラスト300トンばかりを張り、船首1.20メートル船尾2.40メートルの喫水となったバージの船尾凹部に船首部を結合して全長約80メートルの押船列(以下「那智丸押船列」という。)とし、平成10年2月25日00時熊本県三角港を発し、長崎県野母漁港北方1海里ばかり沖合の海砂採取地に向かった。

那智丸押船列は、ほぼ毎日00時ないし01時の深夜に三角港を発し、往航に約5時間、海砂採取に約3時間、復航に約6時間を要して同港に戻り、約3時間かけて海砂の陸揚げを終えたのち、翌日まで待機するということを繰り返し、乗組員は、25日勤務して5日間の陸上休暇をとり、乗船中、海砂の採取及び陸揚げの際には全員が荷役作業に就くほか、航海や機関の当直に当たっており、海砂陸揚げ後から発航時までの待機時間と、非当直時間を休息に当てていたが、連続した休息時間が少なく、また、A受審人は、荷役作業のほか、航海当直をB船長と2人で約3時間交代で行っており、平素、このような就労体制にもかかわらず、あまり疲労を感じていなかったものの、当日は風邪気味で少し体調が悪かった。
A受審人は、三角港発航後休息をとり、03時08分早崎瀬戸を抜けた四季咲岬灯台から054度(真方位、以下同じ。)5.1海里の地点において、B船長から航海当直を引き継ぎ、機関を全速力前進にかけて7.0ノット押航速力とし、針路を262度に定め、自動操舵で樺島南方0.5海里沖合の転針予定地点に向かい、那智丸の船橋内の扉と窓を閉め、舵輪後方に置いた肘掛けいすに腰掛けた姿勢で、足下の電気ストーブで暖をとりながら自動操舵によって進行した。

04時04分A受審人は、四季咲岬灯台から312度3.2海里の地点に達したとき、前方に反航船を認め、これを替わすため自動操舵のまま針路を樺島に向首する270度に転じ、同船を替わしたのち、もう少し経ってから針路を戻すつもりで、ラジオを聞きながらいすに腰掛けたまま続航中、風邪で体調が十分でなかったうえ、前路に他船が見えなくなったことや、陸岸までの距離がまだあることなどから気が緩み、眠気を催すようになったが、まさか眠り込むことはないものと思い、いすから立って窓を開けたり、B船長に申し出て航海当直を交代してもらったりするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、同じ姿勢で同じ針路のまま進行し、いつしか居眠りに陥った。
こうして那智丸押船列は、樺島に向首したまま、同一の針路、速力で続航中、05時20分樺島灯台から041度1.1海里の同島東岸付近の浅所に乗り揚げた。

当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の衝撃で目覚めたB船長は、直ちに昇橋して事後措置に当たり、高潮時を待って自力離礁に成功したのち、野母浦にて仮泊後三角港に帰航した。
乗揚の結果、那智丸の船底外板に擦過傷を、バージの船首船底部外板に破口と船底全体に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、早崎瀬戸から樺島南方沖合に向けて航行の途、他船を避けるために転舵して樺島に向いた態勢で進行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島に向首したまま続航したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、早崎瀬戸から樺島南方沖合に向けて航行の途、他船を避けるために転舵し、樺島に向く態勢で進行中、前路に他船が見えなくなったことや、陸岸までの距離がまだあることなどから気が緩んで眠気を催すようになった場合、いすから立って窓を開けたり、航海当直を交代してもらったりするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、まさか眠り込むことはないものと思い、いすに腰掛けたままラジオを聞きながら航海当直を続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、樺島に向首したまま続航して乗揚を招き、那智丸の船底に擦過傷を、バージの船首部船底に破口と船底全体に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION