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1999年(平成11年)

平成11年門審第71号
    件名
瀬渡船久栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年11月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、供田仁男
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:久栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
推進器翼、同軸及び舵板等を曲損、右舷側船尾外板を損傷

    原因
風圧に対する配慮不十分

    主文
本件乗揚は、風圧に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月14日13時30分
福岡県地ノ島
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船久栄丸
総トン数 4.27トン
全長 12.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 36キロワット
3 事実の経過
久栄丸は、専ら瀬渡しに従事するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客15人を乗せ、船首0.55メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成10年6月14日05時30分福岡県鐘崎漁港を発し、地ノ島東岸釣り場に向かった。
A受審人は、釣客を地ノ島東岸の4箇所の釣り場にそれぞれ瀬渡ししてから、06時15分地ノ島漁港(豊岡地区)に帰港したが、北寄りの風力が強まったことから、釣客を風波の影響の少ない瀬渡し場に移動させることとし、09時30分同漁港を発航して前示各瀬渡渡し場に向かい、釣客全員を収容したのち、その内10人を同島南西岸の3箇所の釣り場に、5人を同漁港の防波堤にそれぞれ再度瀬渡しし、10時30分帰港して自宅で待機した。

A受審人は、風力が強かったことから、いつもより早めに釣客を迎えに行くため13時20分同漁港を発航し、防波堤と地ノ島南西岸の2箇所の瀬渡し場で計13人の釣客を収容したあと、地ノ島三角点(187メートル、以下「三角点」という。)から242度(真方位、以下同じ。)580メートルの地点を発進し、残る2人の釣客を瀬渡ししている、三角点から219.5度700メートルに存在する岩場に向け陸岸に沿って南下し、同時29分半わずか過ぎ同岩場まで30メートルばかりの、三角点から221.5度725メートルの地点において、針路を同岩場に向く084度に定め、機関を2.5ノットの極微速力前進にかけて進行した。
A受審人は、左舷ほぼ正横から風を受けながら、機関のクラッチを極微速力前進と中立とに適宜切り替えて続航し、13時30分わずか前機関を中立回転とし、わずかな行きあしをもって船首を前示岩場に接岸することにしたが、この程度の風ならば風下に圧流されることはないと思い、船首を岩場より風上側に向けるなどして風圧に対する配慮を十分に行うことなく、同一の針路及びわずかな行きあしをもって同岩場に間近に接近したとき、久栄丸は、同岩場付近に存在する浅礁に向かって圧流され、13時30分三角点から220度710メートルの同浅礁に船尾部が乗り揚げた。

当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、わずかなうねりがあった。
乗揚の結果、推進器翼、同軸及び舵板等を曲損し、右舷側船尾外板を損傷したが、僚船により引き降ろされ、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、福岡県地ノ島南西岸において、瀬渡しした釣客を収容する目的で、わずかな行きあしをもって船首を岩場に接岸する際、風圧に対する配慮が不十分で、浅礁に向かって圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、福岡県地ノ島南西岸において、瀬渡しした釣客を収容する目的で、わずかな行きあしをもって岩場に接岸する場合、風下側にある浅礁に圧流されないよう、船首を岩場より風上側に向けるなどして風圧に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の風ならば風下に圧流されることはないと思い、船首を岩場より風上側に向けるなどして風圧に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同浅礁に向かって圧流されてこれに乗り揚げ、久栄丸の推進器翼、同軸及び舵板等を曲損し、右舷側船尾外板に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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