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1999年(平成11年)

平成11年函審第6号
    件名
貨物船第三勘成丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第三勘成丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第三勘成丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
球状船首及び船首部左舷側外板に破口、左舷側ビルジキールを曲損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月16日23時40分
北海道白神岬東岸付近
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三勘成丸
総トン数 492トン
全長 54.86メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 698キロワット
3 事実の経過
第三勘成丸(以下「勘成丸」という。)は、主として北海道函館港から北海道南部の諸港に砕石を輸送している船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人がB受審人ほか3人と乗り組み、平成10年2月16日10時45分砕石800トンを載せて函館港を発し、同日17時00分青森県青森港堤ふとうに着岸して揚荷したのち、山砂を積む目的で、空倉のまま船首1.50メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、19時15分同ふとうを発し、北海道瀬棚港に向かった。
ところでA受審人は、航海中の船橋当直を同人と一等航海士及びB受審人の3人による4時間交替の単独当直とし、荷役中は自船の前後移動作業などのため乗組員全員を当直に就かせていたほか、毎食の食事当番を自分以外の4人の乗組員に5日間交替で行わせていた。
発航後A受審人は、1人で操船に当たって青森港東航路を出航し、平館海峡に向け北上中、同日19時25分青森港北防波堤東灯台から026度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、昇橋した次直のB受審人が数日前から食事当番に就いており、連続した休息時間がとれない状況であることを知っていた。しかし、A受審人は、同16日の函館、青森両港間の航海中、B受審人を船橋当直に就かせていなかったので、その間に休息したものと思い、同人を24時00分まで単独船橋当直に就かせたのち自ら当直に当たることとし、同人に対し、当直中に眠気を催した際は、速やかにA受審人にその旨を報告して当直を交替するよう指示することなく、海図に記入した針路線に沿って航行するよう指示しただけで降橋し、自室のベッドで休息した。
当直交替後B受審人は、平館海峡の明神埼沖合を通過したのち竜飛埼沖合に向け西行し、22時45分竜飛埼灯台から005度1.1海里の地点に達したとき、針路を白神岬灯台の南西方1.3海里の地点に向く309度に定めて自動操舵とし、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折からの北東方に向かう潮流により10度ばかり右方に圧流されながら10.7ノットの対地速力で進行した。
B受審人は、23時04分レーダーで船位を確認したところ、竜飛埼灯台から329度4.2海里の地点に達し、自船が潮流により右方に圧流されて白神岬灯台付近に向かっていることを知ったが、同灯台が船首2.0海里になったとき、その南西方1.3海里の地点に向け転針するつもりで続航した。
ところでB受審人は、数日前から初めて食事当番に就いたが、炊事に慣れていなかったので、その当番時間を朝食が05時ごろから07時ごろまで、昼食が10時ごろから12時半まで、夕食が16時ごろから17時半までとして炊事に当たっており、日中は連続した休息時間がとれず、同16日の函館港から青森港に至る航海中も炊事に追われて休息がとれなかったので、気疲れが蓄積し、睡眠不足の状態となっていた。
こうしてB受審人は、23時14分津軽海峡西口の中央部にさしかかり前路に他船の灯火が認められないようになったとき、慣れない食事当番による気疲れと睡眠不足から眠気を催すようになり、このまま当直を続ければ居眠りに陥るおそれがあった。
しかし、同人は、あと15分で転針予定地点に達し、白神岬の南西方に向けて転針せねばならず、まさか居眠りすることはあるまいと思い、次直のA受審人にその旨を報告して早めに当直を交替してもらうなどの居眠り運航防止措置をとらないまま船橋前面左舷側のレーダーの上部に両肘をつきゴムフードに寄りかかって立ったまま前方の見張りに当たっているうち、いつしか居眠りに陥った。
その後勘成丸は、23時29分白神岬灯台の南西方に向け転針予定地点に達したが、居眠り運航により転針が行われないまま白神岬東岸付近に向かって進行し、23時40分白神岬灯台から060度450メートルの地点において、白神岬東岸付近の浅所に、原針路、全速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、津軽海峡西口付近には北東方に向かう1.9ノットの潮流があった。
A受審人は、自室で当直交替の身支度をしていたところ、突然衝撃を感じ、急ぎ昇橋して乗揚を知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、球状船首及び船首部左舷側外板に破口を生じ、左舷側ビルジキールを曲損したが、自力離礁し、のち損傷部は修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、青森県青森港から北海道瀬棚港に向け津軽海峡西口付近を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、白神岬東岸付近の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは船長が、当直航海士に対し、眠気を催した際は速やかに船長に報告するよう指示しなかったことと、同当直航海士が眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、青森県青森港から北海道瀬棚港に向け津軽海峡西口付近を北上中、部下を単独船橋当直に就かせる場合、部下に船橋当直及び荷役当直のほか毎食の食事当番を行わせており、連続した休息時間がとれないことを知っていたのであるから、部下に対し、眠気を催したときは速やかに次直の船長に報告して当直を交替するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、函館、青森両港間の航海中、部下を船橋当直に就かせていなかったので、その聞に休息したものと思い、眠気を催したときは速やかに報告して当直を交替するよう指示しなかった職務上の過失により、部下が報告しないまま居眠りして勘成丸が居眠り運航となり、転針予定地点を航過したまま白神岬東岸付近の浅所に向かって進行して乗揚を招き、球状船首及び船首部左舷側外板に破口を生じさせ、左舷側ビルジキールに曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独船橋当直に当たって青森県青森港から北海道瀬棚港に向け津軽海峡西口付近を北上中、船橋当直及び荷役当直のほかに数日前から初めて食事当番に当たり、慣れない炊事で連続した休息時間がとれず、睡眠不足と気疲れにより眠気を催した場合、速やかに次直の船長に報告して当直を交替してもらうなどの居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、間もなく白神岬の南西方に向けて転針せねばならず、居眠りすることはあるまいと思い、速やかに次直の船長に報告して当直を交替してもらうなどの居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、転針予定地点を航過し、白神岬東岸付近の浅所に向かって進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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