日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年長審第4号
    件名
遊漁船第五光洋丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年7月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第五光洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
推進器などに曲損、船尾船底外板に破口

    原因
減速不十分、速力過大

    主文
本件乗揚は、狭く湾曲した水路で他船と行き会う際、減速が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月18日19時30分
熊本県本渡瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第五光洋丸
総トン数 6トン
登録長 12.43メートル
幅 2.63メートル
深さ 0.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 280キロワット
3 事実の経過
第五光洋丸(以下「光洋丸」という。)は、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、船首0.40メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成10年7月18日15時00分長崎県江ノ浦漁港を発し、鹿児島県甑島周辺海域に向かった。
発航後A受審人は、熊本県天草下島西岸沿いを通航する予定であったが、折からの風で波が高かったので経路を変え、過去に3回ばかり往復して一通り状況が分かっている本渡瀬戸を通過したのち、17時20分ごろ長島海峡南口付近に達した。
A受審人は、しばらく停留して外洋の波の状況を観測していたところ、波が治まる気配がないので、甑島周辺での釣りを断念し、熊本県牛深港沖合辺りまで引き返して釣りをしようとしたものの、漁船が多く、また、明るいうちに本渡瀬戸を通過しないと危険なので、遊漁をあきらめて往航の経路をたどって帰航することとし、18時20分ごろ長島海峡南口付近を発進した。
ところで、本渡瀬戸は、熊本県本渡港内に含まれ、天草上島と天草下島間にあって、島原湾と八代海に通じる平均幅100メートルばかりの湾曲した狭い水路で、その中央部分が長さ約5キロメートルにわたって幅約50メートル水深4.5メートルのすり鉢状に掘り下げられた航路(以下「掘下げ航路」という。)となっていたが、掘下げ航路外側のほとんどのところが干出岩で、掘下げ航路と同航路外の境界を示す標識がなく、また、両岸には高い護岸堤が築かれているので、湾曲した水路を遠くまで見通すことが困難であるうえ、漁船のみならず、総トン数200トン前後の内航貨物船やフェリーなど多数の船舶が利用していた。
19時24分半A受審人は、本渡瀬戸灯標から175度(真方位、以下同じ。)910メートルの掘下げ航路南口に達したとき、操舵室中央で腰掛けて手動操舵に当たり、機関の回転数を調整して対地速力を14.5ノットとし、その後掘下げ航路の中央をこれに沿って北上し、同時28分48秒同灯標から307度1,060メートルの地点に達したとき、その先600メートルばかりにわたって真直ぐとなった掘下げ航路の向きに合わせ、針路を355度に定めて進行した。
19時29分21秒A受審人は、本渡瀬戸灯標から316度1,240メートルの地点に達したとき、左舷10度650メートルのところに、護岸堤の陰から現れた南下する態勢の自船と同程度の大きさの漁船を認めたが、自船は全速力の半分ほどの速力としているので大丈夫と思い、十分に減速することなく、同速力のまま続航した。
光洋丸は、同速力で進行中、19時29分45秒A受審人が掘下げ航路の中央付近を南下する前示漁船と互いに左舷を対して替わそうと、とっさに右転したのち左舵をとったものの、速力が過大であったため、同航路の東外側に外れ、19時30分本渡瀬戸灯標から329度1,460メートルの地点で、355度の針路に戻ったとき、水面下となっていた干出岩に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、掘下げ航路には0.5ノットの南流があり、19時26分の日没直後であったが周囲はすでに薄暗かった。
乗揚の結果、舵軸、推進器などに曲損を、船尾船底外板に破口をそれぞれ生じたが釣り客等にけがはなく、船体はのちに修理された。

(原因)
本件乗揚は、日没後の薄明時、本渡瀬戸の狭く湾曲した掘下げ航路の中央付近を北上中、南下船と行き会うこととなった際、減速が不十分で、過大な速力のまま転舵したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、本渡瀬戸の狭く湾曲した掘下げ航路の中央付近を北上中、護岸の陰から現れた南下船を認めた場合、可航幅が制限されているから、同船と互いに左舷を対して無難に航過できるよう、十分に減速すべき注意義務があった。しかし、同人は、全速力の半分ほどの速力としているので大丈夫と思い、十分に減速しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま転舵して乗揚を招き、船尾船底の破口、推進器の曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION