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1999年(平成11年)

平成10年横審第111号
    件名
漁船第八富士丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年4月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西村敏和、半間俊士、長浜義昭
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第八富士丸漁ろう長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底部を大破、のち廃船

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月18日03時15分
神奈川県小田原漁港南方
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八富士丸
総トン数 16.06トン
登録長 13.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 115
3 事実の経過
第八富士丸(以下「富士丸」という。)は、FRP製漁船で、かじきまぐろ突棒漁業及びかつお曳き縄漁業に従事するため、平成10年3月中旬から東京都八丈島神湊漁港をはじめ伊豆諸島の各漁港に停泊して、ここから同諸島周辺海域に出漁し、漁獲したかじきまぐろは静岡県下田港に、かつおは神奈川県小田原漁港にそれぞれ水揚げする操業形態をとり、A受審人が兄である船長Bと2人で乗り組み、操業の目的で、船首0,6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同年4月16日21時00分神湊漁港を発し、八丈島東方の漁場に向かい、翌17日03時ごる漁場に到着し、北上しながら曳き縄漁を行って、かつお約600キログラムを獲たところで操業を終え、御蔵島東方58海里のところを発進し、水揚げのため小田原漁港に向かった。
これより先、A受審人は、16日05時ごろ神湊漁港を発し、八丈島付近海域において突棒漁を操業したが、漁模様が芳しくなく、操業を早めに切り上げて同日13時ごろ同漁港に帰港し、翌朝再び出漁する予定にしていたところ、同島東方海域でのかつお漁が豊漁であるとの情報を得たので、予定を変更して出漁時刻を8時間ばかり繰り上げ、16日早朝からの連続した出漁となっていた。
ところで、富士丸の操舵室は、船体中央部にあって上下2層に分かれ、それぞれに操舵装置が設置されているものの、上部操舵室では手動・自動操舵とも可能であるが、下部操舵室では自動操舵だけが可能となっていた。また、下部操舵室には、レーダー、GPSプロッタなどの機器のほか、同室後方にA受審人のベットが設置されていた。
A受審人は、漁ろう長として、操業を含め運航全般を指揮して実質的な船長職を執っており、船橋当直を単独2直制とし、当直時間は定めず、疲れたら交替することにして、漁場発進時から船橋当直に就き、自らは下部操舵室で休息をとることにした。
船橋当直に就いた船長は、上部操舵室で操船に当たり、折から北寄りの強風で海上は時化(しけ)模様となっており、風浪に抗するため手動操舵に切り換えて針路を保持し、そのころ、A受審人は、ベットで横になっていたものの、他船の動静や海上模様が気にかかり、時々起き上がってレーダーを見たり、波浪の状況を見たりして、睡眠を十分にとることができず、操業中も睡眠がとれなかったことから、睡眠不足と疲労が蓄積した状態となっていた。
22時ごろA受審人は、伊豆大島の竜王埼灯台から095度(真方位、以下同じ。)17.0海里の地点において、船長と交替して船橋当直に就き、法定の灯火を表示し、下部操舵室で椅子(いす)に腰を掛けて操船に当たり、針路を小田原漁港へ直航する315度に定め、機関を毎分1,400回転の全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、自動操舵に切り換えて進行した。
18日00時30分ごろA受審人は、伊豆大島北端を航過し、このころから、相模灘を東西に航行する船舶がふくそうし始め、これらの船舶と頻繁に横切り関係が生じるようになったので、上部操舵室で手動操舵に就き、他船を避航しながら続航し、やがて02時00分ごろ船舶の往来が少なくなったことから、再び同針路の315度で自動操舵に切り換えて下部操舵室に降り、02時09分レーダーにより初島東端を左舷船首56度5.5海里に探知し、しばらくは隣近する他船がいないことを確認して椅子に腰を掛け、レーダー見張りや僚船との無線交信を行いながら当直を続けた。
02時30分A受審人は、初島灯台から045度4.7海里の地点に達して、レーダーにより初島に並航したことを確認し、小田原漁港に向かうため針路を右に転じる必要があることを知り、真鶴岬の南東方2海里の地点で転針することにしたが、同地点まで3海里しかなく、それまで横切り船が多かった緊張感から眠気を感じていなかったので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらず、椅子に腰を掛けてベットの側板に背をもたせかけた姿勢で当直を続けているうち、接近する他船がいなくなった安心感から疲れが一気に出て、初島を航過して間もなく居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、居眠りしたまま進行し、02時50分転針予定地点に達したが、このことに気付かず、転針することができずに小田原漁港南方の海岸に向首して続航中、03時15分小田原港新1号防波堤灯台から185度4.0海里の海岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底部を大破し、サルベージ船により引き降ろされたが、のち廃船となった。

(原因)
本件乗揚は、夜間、神奈川県真鶴岬南東方の相模灘を小田原漁港に向けて北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針予定地点で転針できずに、同漁港南方の海岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、神奈川県真鶴岬南東方の相模灘を小田原漁港に向けて北上中、連続した操業で十分な睡眠がとれず、睡眠不足と疲労が蓄積した状態で、長時間単独の船橋当直に就いた場合、居眠りに陥らないよう、時々立ち上がって外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、間もなく転針予定地点であるので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、外気に当たるなどして眠気を払う措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰を掛けたまま当直を続けて居眠りに陥り、転針予定地点で転針できずに、同漁港南方の海岸に向首進行して乗り揚げ、船底部を大破して全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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