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1999年(平成11年)

平成11年長審第36号
    件名
漁船第八大洋丸乗組員負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成11年12月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第八大洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
甲板員1人が約6箇月間の入院加療を要する右大腿骨骨折等

    原因
揚網中の漁具巻込まれ防止対策不十分

    主文
本件乗組員負傷は、揚網中の漁具巻込まれ防止対策が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月24日02時30分
長崎県五島列島福江島西南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八大洋丸
総トン数 135トン
全長 43.20メートル
幅 7.60メートル
深さ 3.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット
3 事実の経過
第八大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻で構成される大中型まき網漁業船団所属の一層甲板中央船橋型鋼製網船で、操舵室前方の前部甲板上に環巻ウインチ、環巻用ワイヤーリール、パースウインチ、揚網ローラー、荷役ブーム、機関室囲壁左舷側に大手巻ウインチ及び同壁後端に網さばきブームを1基ずつ配置し、同壁後方に網置場と船尾甲板を順に設けていた。また、船尾甲板左舷側には、網さばきブームと油圧機器操縦台のほか、前後に並んだ同甲板上の高さ0.55ないし0.74メートル胴径0.34メートルの立型ローラーを、船尾側の立型ローラーの後方至近に長さ約20センチメートル(以下「センチ」という。)の同ローラー専用の操作レバー(以下「レバー」という。)を、同甲板船尾端にネットホーラーを、前部甲板右舷側から網置場右舷側にかけてサイドローラーをそれぞれ設置し、操舵室内にこれら漁ろう機器駆動用油圧ポンプの操作盤を設けていた。
大洋丸は、A受審人及びB指定海難関係人ほか19人が乗り組み、あじ、さば漁を行う目的で、船首2.20メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成10年2月15日07時10分長崎県奈良尾港を僚船4隻とともに発し、大韓民国済州島南方沖合の漁場に至って操業を開始し、その後、長崎県五島列島福江島西方沖合へと漁場を移動しながら操業を続けた。
ところで、操業方法は、長さ約1,450メートル幅約400メートルの網の両端に取り付けた浮子側の大手巻ワイヤーと沈子側の環ワイヤーの片方ずつを手船と称する灯船に渡して投網を開始し、集魚中の灯船を中心として魚群を囲むように網を入れ、投網を終えて手船から先に渡した2本のワイヤーを受け取り、大手巻ウインチとパースウインチ及び環巻ウインチを使用して両ワイヤーの巻取りを開始し、手船にうらこぎをさせながら大手巻ワイヤーを船内に巻き取り、環ワイヤーを絞ったのち、灯船を網から出し、ネットホーラーに網の一端をかけて網の揚収にかかり、網の輪が小さくなったところでサイドローラーを使用して網の横揚げを行い、魚を取り込んでから網を船内に収容するもので、投網に約6分、揚網に約2時間を要していた。

同月24日00時05分A受審人は、福江島大瀬埼西南西方約35海里の漁場で、操舵室で操業全般の指揮を執る漁ろう長の指示のもと、乗組員全員で投網を開始し、同時11分ごろ投網を終えて直ちに揚網にかかり、その後、ネットホーラーを使用して揚網作業中、浮子綱が緩んで同綱と沈子綱との張り具合が均等でなくなり、網の横揚げ作業に支障を生じる状況となったので、B指定海難関係人を立型ローラーの操作に就け、浮子綱の巻上げ作業を行わせることとしたが、同人は同作業の経験が豊富で、同作業に習熟しているので特に注意するまでもないものと思い、同人に対してロープや網などに巻き込まれることのないような安全な場所で同作業を行うよう指示しないで、自らは船尾甲板上の作業状況を監視できない前部甲板右舷側で揚網ローラーの操作に当たった。
B指定海難関係人は、安全帽、ゴム合羽及びゴム長靴を着用し、明るく照明された船尾甲板上で、船毛側の立型ローラーを使用して浮子綱を巻き上げることとし、直径25センチ長さ17.5センチのゴム製浮子を8センチ間隔で取り付けた直径22ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製浮子綱に対し、他の甲板員が右舷船尾付近で結んだ、直径45ないし50ミリ長さ約20メートルの合成繊維製ロープの一端を受け取り、レバーを左舷側に倒して同ローラーを右回りに回転させ、船首側の立型ローラーの右舷側で船尾方を向いて立ち、ロープを船尾側の立型ローラーに数回巻いて巻き始めたが、それまでこの位置でレバーを操作しながら浮子綱の巻上げ作業に当たって支障がなかったことから、大丈夫と思い、レバーを安全に操作できる船尾側の立型ローラーの後方に位置しないで、同作業に当たった。
B指定海難関係人は、ロープを巻き取りながら浮子綱と網を船尾甲板上に5メートルほど巻き上げ、巻きしろがなくなれば船尾側の立型ローラーを止め、他の甲板員に巻き取ったロープの一端を浮子綱に取り直させて浮子綱と網を巻き上げる作業を繰り返し、浮子綱に3度目のロープの取直しを行おうとしたところ、同甲板員が他の作業を行っていたので、自らロープの取直しを行うため、いったん同ローラーを止めようと左足で巻込み中のロープをまたいで間もなく、股下を網がくぐり抜け、レバーが網で押されて更に左舷側に倒れ、同ローラーの回転が早くなり、浮子綱と網に左足が絡まって同ローラーの上に腰掛けた状態となり、02時30分北緯32度27分東経127度56分の地点において、同ローラーに両足が巻き込まれた。
当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、付近海域には高さ約2メートルの波があった。

A受審人は、船尾方からの「油圧ストップ」という大声を聞いて急ぎ船尾方へ向かったところ、船尾側の立型ローラーに両足を巻き込まれているB指定海難関係人を認め、操舵室へ行って油圧ポンプを止めようとしたものの、すでに漁ろう長が同ポンプを止めたのを知って事後の措置に当たった。
その結果、B指定海難関係人は、約6箇月間の入院加療を要する右大腿骨骨折等を負った。


(原因)
本件乗組員負傷は、夜間、長崎県五島列島福江島西南西方沖合の漁場において、揚網作業中、漁具巻込まれ防止対策が不十分で、乗組員の足が巻上げ中の漁具に絡まり、回転中の立型ローラーに巻き込まれたことによって発生したものである。
漁具巻込まれ防止対策が十分でなかったのは、漁具の巻上げ作業を行う際、船長が乗組員に対して漁具に巻き込まれることのないような安全な場所で同作業を行うよう指示しなかったことと、乗組員が立型ローラー操作用レバーを安全に操作できる位置で同作業を行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人が、夜間、長崎県五島列島福江島西南西方沖合の漁場において、乗組員に立型ローラーを使用して漁具の巻上げ作業を行わせる際、漁具に巻き込まれることのないような安全な場所で同作業を行うよう指示しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、以上のA受審人の所為は、乗組員が漁具の巻上げ作業の経験が豊富で、同作業に習熟していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
B指定海難関係人が、夜間、長崎県五島列島福江島西南西方沖合の漁場において、立型ローラーを使用して漁具の巻上げ作業を行う際、同ローラー操作用レバーを安全に操作できる場所に位置しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件によって重傷を負い、深く反省している点に徴し、勧告するまでもない。


よって主文のとおり裁決する。






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