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1999年(平成11年)

平成11年横審第84号
    件名
引船第三十八長洋丸被引浚渫船AP−1000良成丸灯浮標損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成11年12月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、吉川進、西村敏和
    理事官
岩渕三穂

    受審人
A 職名:第三十八長洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
灯浮標の標体、マーキング装置、同取付台、レーダーリフレクターなどを損傷

    原因
曳航している作業船と灯浮標との航過距離不十分

    主文
本件灯浮標損傷は、第三十八長洋丸が、AP−1000良成丸を曳航して灯浮標を航過する際の同船との航過距離が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月3日13時15分
伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 引船第三十八長洋丸 浚渫船AP−1000良成丸
総トン数 199トン 1,986トン
全長 33.65メートル 60.00メートル
幅 25.00メートル
深さ 3.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
第三十八長洋丸(以下「長洋丸」という。)は、2基2軸でコルトノズルラダーを備えた曳(えい)航力約18トンの引船で、A受審人ほか4人が乗り組み、AP−1000良成丸(以下「作業船」という。)を回航させる目的で船尾に引き、船首2.50メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成9年12月3日06時00分愛知県三河港を発し、三重県鳥羽港に向かった。
作業船は、日立バックホーEX1100と称する揚土使用機械2基を備え、風力によって浚渫土砂を搬送する工法を取り入れた、総トン数約1,986トンの風力搬送船で、作業責任者及び作業員計8人が乗り組み、曳航索として長洋丸の船尾フックから約40メートル延出した直径100ミリメートルのパイレンロープに、作業船の船首両端にY字型にとった直径80ミリメートル長さ約20メートルの2本のワイヤロープをつなぎ、長洋丸の船尾から作業船の船尾まで約100メートルの引船列として曳航され、目的地に向かった。

A受審人は、自ら操舵操船に当たり、一等航海士及び二等航海士を見張りに就けて渥美湾を西航し、中山水道を経て、伊勢湾第3号灯浮標を左舷側に0.5海里離して付け回し、12時22分同灯浮標の南西方800メートルのところで伊良湖水道航路に向けた。
A受審人は、折からの南東流と北西風に乗じて伊良湖水道航路に入航することとなり、12時43分伊良湖岬灯台から262度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達したとき、116度に針路を定め、2.5ノットの対地速力で進行したところ、この針路では伊良湖水道航路第3号灯浮標と自船の航過距離が400メートルであるので、作業船が同灯浮標を十分に離して航過したのち、針路を航路に沿う135度にするつもりであったが、同船が航路南側境界線寄りに圧流され、航路を斜航する状況になって、保針が困難で航路に沿って航行できなくなり、同時56分伊良湖岬灯台から247度1.3海里の地点で、針路を083度に転じ、航路北側に出ることとした。

A受審人は、右舷船首方に見る朝日礁灯浮標を転針目標とし、これを右舷側に航過したのち、航路外を航路に沿ってほぼ135度の針路とすることとしたが、転針角度が約50度と大きくなるので、小角度の舵角なら早期に転舵しても大丈夫と思い、曳航している作業船と同灯浮標との航過距離を十分にとることなく、13時03分同灯浮標を自船の右舷船首45度0.4海里に見る地点で、右舵5度をとって右転を始めた。
13時09分A受審人は、朝日礁打浮標を右舷船首方300メートルに見るところで120度の針路としたところ、作業船が同灯浮標を航過する前に転針を始めたことと、風潮流による圧流も加わって同船が急速に同灯浮標に接近する状況になり、同時15分少し前長洋丸が同針路のまま同灯浮標を100メートルばかり離して航過したとき、後方を見て作業船と同灯浮標との間隔が狭まっているのを認め、急いで左舵一杯をとるとともに、機関回転数を全速力前進に上げたが、効なく、13時15分伊良湖岬灯台から217度1,500メートルの地点において、長洋丸の船首が090度を、作業船の船首が110度をそれぞれ向いたとき、ほぼ原速力のまま、作業船の右舷側後部が朝日礁灯浮標に接触した。

当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、漸候は下げ潮の中央期に当たり、付近には0.5ノットの南東流があった。
この結果、作業船に損傷はなかったが、朝日礁灯浮標は標体、マーキング装置、同取付台、レーダーリフレクターなどを損傷し、のち修理された。


(原因)
本件灯浮標損傷は、作業船を曳航中の長洋丸が、船尾から強い風潮流を受けて伊良湖水道航路を南下中、保針が困難で航路に沿って航行できなくなり、航路北側境界線にある朝日礁灯浮標の手前で航路北側に出たのち、同灯浮標を転針目標として右転する際、曳航している作業船と同灯浮標との航過距離が不十分で、同灯浮標に向けて圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、作業船を曳航する状態で船尾に強い風潮流を受けて伊良湖水道航路を南下中、保針が困難で航路に沿って航行できなくなり、航路北側境界線にある朝日礁灯浮標の手前で航路北側に出たのち、同畑浮標を転針目標として右転する場合、曳航している作業船と同灯浮標との航過距離を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、転針角度が大きいので、小角度の舵角なら早期に転舵しても大丈夫と思い、朝日礁灯浮標を長洋丸の右舷船首45度に見るところで転針を始め、曳航している作業と同灯浮標との航過距離を十分にとらなかった職務上の過失により、作業船が同灯浮標に圧流されて接触し、同灯浮標の標体、マーキング装置、同取付台、レーダーリフレクターなどに損傷を与えるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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