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1999年(平成11年)

平成11年仙審第23号
    件名
引船第八菊栄丸被曳台船第二十八小松丸送電施設損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成11年11月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第八菊栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
送電線切断し、鉄塔に損傷

    原因
水路調査不十分

    二審請求者
補佐人田川俊一、佐々木吉男

    主文
本件送電施設損傷は、水路調査が不十分で、クレーンブームを立てて航行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月14日10時08分
宮城県大島瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 引船第八菊栄丸 被曳台船第二十八小松丸
総トン数 19.93トン 477トン
全長 14.00メートル 36.00メートル
幅 16.00メートル
深さ 2.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
3 事実の経過
第八菊栄丸(以下「菊栄丸」という。)は、鋼製引船で、A受審人が1人で乗り組み、曳航索をとって船尾に引いた被曳台船第二十八小松丸(以下「小松丸」という。)と引船列を構成し、船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年11月14日09時50分宮城県気仙沼港朝日ふ頭を発し、同県西舞根貝浜海岸消波堤築造工事(以下「消波堤築造工事」という。)現場に向かった。
また、小松丸は、船首部に甲板室を、船尾部に最大仰埆72度長さ33.5メートルのクレーンブーム(以下「ブーム」という。)を備えた吊り上げ荷重90トンの全旋回ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を装備する非自航型鋼製起重機台船で、B指定海難関係人が移動式クレーン運転士(以下「運転士」という。)として1人で乗り組み、甲板上の横方向に5列及び縦方向に4列の等間隔に並べて置かれた消波ブロック20個を載せ、船首尾とも1.8メートルの等喫水をもって、船首から2本の各直径60ミリメートル長さ20メートル及び1本の直径65ミリメートル長さ30メートルの各合成繊維ロープを連結したY型の曳航索で菊栄丸に曳航され、消波堤築造工事現場に向かった。

C指定海難関係人は、消波ブロックを気仙沼港から気仙沼湾の大島瀬戸を経由して同湾東湾北部の鎧洗埼付近に投入する消波堤築造工事を請け負った株式会社Rの現場責任者で、消波ブロックの製造工場からの搬出、台船への積込み及び工事現場への据付けにおける事故防止対策を含む同工事全般を指揮監督する立場であった。また、同人は、海上運送の曳航に関する作業を引船船長に任せていたが、気仙沼港を発航する前に同工事関係者を集めて工事全般の打合わせを行い、風が強いこと及び大島瀬戸にかき棚があることを注意し、特に小松丸に乗船する運転士に対して、曳航されている際にはブームを下ろしておくように指示していた。
ところで、大島瀬戸は、気仙沼湾の大島と同島北方陸岸との間に存在し、両岸一帯にかき棚があり、同瀬戸西側入口から300メートルのところの可航幅が約150メートルの最狭部付近には海図記載上の高さ26メートルの送電線3本(以下「送電線」という。)が大島北岸からほぼ北北西方に同瀬戸を横切って架設されていた。しかし、送電線用鉄塔(以下「鉄塔」という。)は陸岸から奥の方に建っていたうえ山の木立と重なり、送電線も遠景の木立に紛れ、大島瀬戸を通航する船からは見えにくくなっていた。

A受審人は、前日小松丸を気仙沼港に回航して大島頼戸を西行したが、自船の船橋の天井が低く、上方を上目遣いに見ることが灘しかったことと、山の木立に重なったり、遠景の木立に紛れたり並びに高い所に設置及び架設されていたことから鉄塔及び送電線を認めることができなかったうえ、気仙沼港に係留した際、関係海図に記載された大島瀬戸を横切る点線及び記号を見たが、それらを海底電線のものと思い、その記号の意味を調べるなど事前の水路調査を十分に行うことなく、大島瀬戸に架設されている送電線を知らないまま、前示打合わせののち、B指定海難関係人に風が強くてブームを立てると風下に圧流されることからブームを下ろしておくよう指示したものの、大島瀬戸に送電線が架設されていることを知らせることができなかった。
A受審人は、発航から小松丸を曳航して時々後方の同船を見ながら操舵操船に当たり、10時01分少し過ぎ上段灯台から251度(真方位、以下同じ。)640メートルの地点で、大島瀬戸に漁船及びフェリーなどの反航船があることから、針路を大島瀬戸西側入口南側に向く091度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、4.8ノットの対地速力で進行した。

10時02分半A受審人は、上段灯台から243度470メートルの地点に達したとき、操舵位置の真後ろの配電盤越しに後方を振り返ってブームを下ろした小松丸を確認し、その後反航船及び大島沿岸のかき棚に気を奪われて後方の小松丸を見ず、更にB指定海難関係人からブームを立てた旨の報告を受けなかったことから小松丸がブームを立てたことを知らないまま続航した。
一方、B指定海難関係人は、発航前にA受審人及びC指定海難関係人に風が強いから曳航中ブームを下ろしておくよう言われたので、発航したのちブームを下ろしていたが、消波堤築造工事作業の段取りを考えるうち、風が強いので同工事現場に着いたら小松丸の風下への圧流を防止するためアンカー用に消波ブロック1個を直ちに投入できるよう左舷船尾に移動しておくこととし、10時03分少し前上段灯台から242度440メートルの地点に達したとき、大島瀬戸に送電線が架設されていることを知らされていればクレーンを立てなかったが、船首が大島瀬戸に向いて追い風となったので、クレーンを立てても横方向に圧流されないと思い、曳航中にブームを立てるなど曳航作業に支障を生じるような作業を引船船長に報告しなければならないことを知っていたものの、平

素、小松丸の船内作業を一切引船船長に報告していなかったことから、A受審人に報告をしないままブームを最大角度72度まで立て、クレーン操縦室から降りて甲板上で関係ワイヤロープの準備作業を始めた。
10時04分半B指定海難関係人は、上段灯台から213度250メートルの地点に達し、前路上方に鉄塔及び送電線を認めたとき、行きあしを止めてもらうためA受審人にトランシーバーで連絡をとったが、菊栄丸と連絡がとれなかったのでクレーン操縦席に上がり、ブームを下ろそうとしたが及ばず、10時08分上段灯台から123度400メートルの地点において、小松丸は、原針路、原速力で曳航されたまま、そのブーム先端部が送電線と接触した。
当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、送電線との接触に気付かないまま大島瀬戸を東行中、養殖施設作業船の連絡で本件発生を知り、事後の措置に当たった。

その結果、送電線が切断し、鉄塔に損傷を生じ、関係地域が停電したが、のちいずれも修理復旧された。

(原因)
本件送電施設損傷は、大島瀬戸を東行する際、水路調査が不十分で、ブームを立てて航行したことによって発生したものである。
小松丸がブームを立てたことは、菊栄丸船長が水路調査不十分で、小松丸運転士に送電線が架設されていることを知らせることができなかったことと、同運転士が、送電線の存在を知らされなかったことからブームを立てたこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、クレーン装備の小松丸を曳航してを東行する場合、航行中にクレーンを立てて送電線と接触しないよう、事前に水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、関係海図に記載されていた大島瀬戸を横切る点線及び記号を見たが、それらを海底電線のものと思い、その記号の意味を調べるなど事前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、送電線との接触を招き、送電線を切断、鉄塔の損傷及び関係地区に停電を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が大島瀬戸を東行する際、ブームを立てたことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件発生以後曳航されるに当たり、ブームを下ろし、事情によりブームを立てなければならない際、前路上方の見張りを十分に行うなど安全作業に努めている点に徴し、勧告しない。

C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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