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1999年(平成11年)

平成11年那審第5号
    件名
プレジャーボートまるはち機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:まるはち船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
吸気弁亀裂、同弁の弁棒折損、シリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナなどが損傷

    原因
主機吸気弁の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機吸気弁の整備が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月3日16時30分
鹿児島県奄美大島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートまるはち
総トン数 3.3トン
全長 10.84メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 110キロワット
回転数 毎分3,250
3 事実の経過
まるはちは、平成4年5月に進水したFRP製プレジャーボートで、主機として、スウェーデン王国ボルボ・ペンタ社が製造したAD41B型と称するディーゼル機関の船内外機を装備していた。
主機の吸気及び排気弁は、6シリンダ一体型のシリンダヘッドに、船首側からの順番号が付された各シリンダごとにそれぞれ1個ずつ組み込まれ、各弁棒が同ヘッドに装着された弁座及び弁棒案内を通して触火面側から挿入され、同ヘッド上面から弁バネ、同バネ受け及びコッタなどを取り付け、カム軸によって上下動するプッシュロッド及びロッカーアームからなる動弁装置を介して開閉されるようになっていた。

ところで、吸気及び排気弁は、弁棒がきのこ弁型で、弁棒の弁傘部と弁座の当たり面が密着するようになっているが、運転時間の経過とともに当たり面が肌荒れして不良になると、両者が密着しなくなって燃焼ガスが吹き抜け、高熱にさらされて材料が疲労し、弁棒に亀裂が生じるおそれがあり、同弁の整備を行うにあたっては、次回定期整備まで使用可能か否かが確かめられるよう、運転時間を基準にした定期的な整備を実施する必要があった。
A受審人は、新造時から船長として乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、1箇月に5ないし6回、朝に出航して夕刻に帰航する運航を繰り返し、1年に1回程度上架して船体の整備を実施していたところ、新造後3年を経過したころ、主機の排気管に熱疲労による亀裂が生じ、修理業者に修理を依頼した。しかし、同人は、その後も主機については、運転に異状が生じた時には自分で判断できるから、そのときに修理業者に修理を依頼することとし、これまで運転に支障がなかったことから、このまま運転しても大丈夫と思い、定期的な整備を同業者に依頼せず、吸気弁をはじめとして主要部品の開放整備を行うことなく、運転を続けていた。

ところが、主機3番シリンダの吸気弁は、新造時から1度も整備が行われることなく継続使用されていたことから、徐々に当たり面が肌荒れし、弁俸が弁座と密着しなくなって燃焼ガスが吹き抜け、高熱にさらされて材料が疲労し、弁棒に微小亀裂が生じていた。
こうして、まるはちは、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、平成9年11月3日07時00分鹿児島県名瀬港長浜地区を発し、08時30分サンドン岩付近の漁場に至り、鯛約50匹を漁獲し、16時00分同漁場を発して帰途に就き、主機を回転数毎分3,000にかけて進行中、爆発圧力等による応力が、前示吸気弁の亀裂箇所に集中して繰り返し作用したことにより、亀裂が進行し、16時30分笠利埼灯台から真方位353度7.0海里の地点において、同弁の弁棒が、弁傘付け根部で折損し、脱落した弁傘がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、主機が異音を発するとともに回転が低下した。

当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、操縦ハンドルを下げたところ、主機が停止したので、再始動を試みたものの、さらに異音を認め、これ以上の運転は不能と判断し、救助を要請した。
まるはちは、来援した巡視艇により発航地に引き付けられたのち、修理業者が各部を精査した結果、前示損傷のほか、脱落した弁傘の破片によって、シリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナなどが損傷していることが判明し、主機を換装して修理された。


(原因)
本件機関損傷は、機関の運転管理に当たる際、主機吸気弁の整備が不十分で、運転時間の経過とともに弁棒と弁座の当たり面が不良になり、燃焼ガスが吹き抜けて弁傘部が高温にさらされ、材料が疲労したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、機関の運転管理に当たる場合、運転時間の経過とともに主機吸気弁の弁棒と弁座の当たり面が不良になるから、燃焼ガスが吹き抜けることのないよう、修理業者に依頼するなどして吸気弁の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで運転に支障がなかったことから、このまま運転しても大丈夫と思い、吸気弁の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、吸気弁の破損を招き、シリンダヘッド、ピストン及びシリンダライナなどに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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