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1999年(平成11年)

平成10年門審第106号
    件名
漁船第八新栄丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年10月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、西山蒸一、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第八新栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1番及び2番のクランクピン軸受メタル及びクランク軸などに損傷

    原因
主機潤滑油の性状管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月13日07時00分
大分県佐伯湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八新栄丸
総トン数 19トン
登録長 16.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 426キロワット
3 事実の経過
第八新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、昭和56年11月に進水した、大中型まき網漁業に従事するFRP製漁獲物運搬船で、主機として新キャタピラー三菱株式会社が製造した3408TA型と呼称する、各シリンダが左右4シリンダずつV字形に配列された、過給機付4サイクル8シリンダV型ディーゼル機関を装備し、各シリンダは左舷側を奇数、右舷側を偶数として船首側より順に1番から8番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめに入れられた約87リットルの潤滑油が、主機直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び潤滑油こし器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各シリンダごとの主軸受に入って同軸受を潤滑したのち、クランク軸内を通ってクランクピン軸受を潤滑し、更に連接棒内を通ってピストンピン軸受を潤滑する系統、噴霧ノズルから各ピストン内面に噴射されてピストンを冷却する系統、給排気弁やロッカーアーム軸受などの動弁機構を潤滑する系統及びその他カムシャフトや過給機などを潤滑する系統へそれぞれ分岐して給油され、いずれも油だめにもどって循環するようになっており、潤滑油圧力が0.4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に低下すると作動する潤滑油圧力低下警報装置を備えていた。
潤滑油こし器は、カートリッジ式フィルタを2個並列にしたもので、汚損して目詰まりした時に同油こし器の出入口の差圧が約2.6キロに上昇すると、給油の途絶を防止するために開弁して同油こし器をバイパスするフィルタ・バイパス弁が取り付けられていた。
ところで、主機の潤滑油は、長時間使用するうちに金属粉、スラッジ及び燃焼成生物であるカーボン粒子などにより汚れるとともに高温にさらされることや燃料油及び水分が混入することから、粘度などの性状の劣化が進行し、軸受部及び潤滑油ポンプ歯面などの摩耗や潤滑油こし器の目詰まりによる潤滑油圧力の低下、並びに異吻の噛み込みなどによる潤滑阻害を招き、軸受部が焼付くおそれがあるので、機関取扱説明書には、潤滑油分析サービスの利用を推奨するとともに250時間ごとに潤滑油の新替及び同油こし器のフィルタエレメントの取替を行うよう記載されていた。

A受審人は、平成9年6月に中古の新栄丸が購入された時から同船に機関取扱説明書が存在せず、潤滑油の新替及び同油こし器のフィルタエレメントの取替の交喚基準時間がわからないまま、船長として機関の運転及び保守管理に当たることとなったが、建造中の代替船が竣工するまでのつなぎの船なので潤滑油の新替は3箇月ごとに行えば大丈夫と思い、同油の新替及び同油こし器のフィルタエレメントの取替をメーカーに問い合せるなどして適正間隔で行うなど、同油の性状管理を十分に行うことなく、本船購入時及び同年10月に行い、月平均300時間ほど主機を運転していた。
このため、新栄丸は、交換基準時間を大幅に越えた潤滑油の使用により、著しく汚損劣化した同油中の異物による同油こし器のフィルタエレメントの目詰まりによりフィルタ・バイパス弁の開弁が生じて同油中の異物が軸受部に噛み込むなどし、潤滑油圧力低下警報が作動する前にいつしか軸受部の潤滑が阻害されるようになっていた。

こうして、新栄丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、平成9年12月12日16時30分大分県二又漁港を発し、愛媛県佐田岬南東方沖合の漁場に至って操業を行い、翌13日04時30分操業を終え、帰港中の同日07時00分竹ケ島灯台から真方位329度500メートルの地点において、クランクピン軸受などの潤滑が阻害され、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
操船中のA受審人は、緊急停止ボタンを押して主機を停止して調査した結果、運転の継続を断念し、僚船に曳航されて二又漁港に引きつけられた。
主機を開放した結果、1番及び2番のクランクピン軸受メタル及びクランク軸などに損傷が生じていることが判り、中古機関と換装された。


(原因)
本件機関損傷は、主機潤骨油の性状管理が不十分で、潤滑油の著しい汚損劣化により、軸受部の潤滑が阻害されたまま運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転及び保守管理に当たる場合、潤滑油を長時間使用すると、同油が汚損劣化して軸受部の潤滑が阻害されるおそれがあったから、同油の新替及び同油こし器のフィルタエレメントの取替をメーカーに問い合せるなどして適正間隔で行うなど、同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、建造中の代替船が竣工するまでのつなぎの船なので潤滑油の新替は3箇月ごとに行えば大丈夫と思い、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、軸受部の潤滑阻害を招き、クランクピン軸受の焼付き及びクランク軸の曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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