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1999年(平成11年)

平成10年仙審第55号
    件名
漁船第二十一末廣丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第二十一末廣丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ダブルポンプのロータと側板損傷

    原因
漁労機器用油圧ポンプの作動油の管理不十分

    主文
本件機関損傷は、漁労機器用油圧ポンプの作動油の管理が十分でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月10日06時30分
山形県由良港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一末廣丸
総トン数 14トン
全長 21.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,900(定格回転数)
3 事実の経過
第二十一末廣丸は、平成7年5月に進水した、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、甲板上には、船体中央部の機関室囲壁両舷に雑用ドラム、船尾甲板船首側両舷にリール付きの曳網ウインチ及び同甲板中央部にボールローラ等の油圧式漁労機器を備えており、機関室中央部に主機を据え付け、同機の船尾側にクラッチ付の二段減速装置を、船首側に動力取出軸をそれぞれ装備し、同軸で漁労機器用の油圧ポンプを駆動できるようになっていた。
漁労機器用の油圧ポンプは、各曳網ウインチ用の串形に配置された可変容量型ポンプ2台と、電磁クラッチを内蔵した、雑用ドラム及びボールローラ用のポンプ(以下「ダブルポンプ」という。)で、主機動力取出軸により、エアクラッチを介して設けられた同じプーリから共にVベルトで駆動されるようになっており、エアクラッチと電磁クラッチの嵌脱操作は、操舵室内に設けられた各々のスイッチで行えるようになっていた。
ところで、ダブルポンプは、一つのポンプ本体に大小二つのポンプを組み込んだ二圧式定容量型のベーンポンプで、大ポンプが雑用ドラム用の油圧モータを、小ポンプがボールローラ用の油圧モータをそれぞれ駆動するようになっており、各ポンプは、カムリング、ロータ、ベーン及び側板で構成され、ロータの溝にはめ込まれたベーンが遠心力でカムリングの内周面に押しつけられながら摺動し、そのときの各ベーン間の容積変化によってポンプ作用が行われるもので、ロータが側板間に挟まれて摺動しながら回転し、摺動面の潤滑が作動油によって行われているため、作動油の粘度が温度上昇によって低下したり、ロータ側面や側板などの摺動面が作動油中の異物を噛み込むなどしたりして損傷すると、同ポンプの吐出圧力が低下するおそれがあった。
一方、ダブルポンプの油圧回路は、作動油タンクからこし器を経て、大小二つの各ポンプで吸引・加圧された作動油が、各切替弁を経て油圧モータを駆動し、無負荷時には、各切替弁から直接同タンクに戻って循環するようになっており、各ポンプの出口管にはそれぞれ圧力計が設けられていた。
なお、作動油タンクは、リール付曳網ウインチ用油圧ポンプとの共用で、当初は、作動油の温度上昇などを考慮して450リットルの容量のものが計画されていたが、機関室の配置の関係で必要なスペースが確保できなかったことから、300リットルの容量のものが設置されていた。
A受審人は、就航時から船長として乗り組んで油圧式漁労機器の保守管理にも携わっていたが、就航以来、作動油タンクの油量点検も各油圧ポンプ用こし器の掃除もほとんど行っていないなど、同油の管理を十分に行っていなかった。
本船は、山形県鼠ケ関港を基地として日帰り操業に従事しており、漁場においては、ダブルポンプを運転して、適宜雑用ドラムやボールローラを使用するなどし、1回が70分ほどの曳網を1日平均8回ほと繰り返しながら、月間15日ほど操業しているうち、作動油タンクの油量が半分近くまで減少し、同油の温度が上昇して粘度が低下するとともに、同油が汚損・劣化する状況となっていた。
こうして、本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、はたはた漁の目的で、同10年4月10日03時鼠ケ関港を発し、同港沖合の漁場に至ったのち、05時15分ごろからダブルポンプを無負荷で運転して操業を開始したが、その後、曳網中に根がかりしたので主機の回転数を徐々に増加させてこれを引き外し中、根がかりが外れて瞬間的に主機の回転数が上昇した際、温度上昇によって作動油の粘度が低下していたうえにダブルポンプの摺動面が作動油中の異物をかみ込み、06時30分波渡埼灯台から真方位294度9海里の地点において、同ポンプのロータと側板が損傷した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、そのまま操業を続行し、ボールローラを使用して揚網作業に取りかかったところでダブルポンプの作動油圧が低下していることに気付いたものの、同油圧力を上昇させるために主機の回転数を増加させて揚網作業を続け、操業終了後に鼠ケ関港に帰港した。
その後、A受審人は、ダブルポンプを使用する時には主機の回転数を上昇させて操業を繰り返していたところ、同ポンプのロータと側板の損傷が進行してVベルトに過大な力が加わりスリップしたものか、約1週間後に同ベルトが切損したので、中古品のVベルトに取り替え、さらに、取り替えたVベルトも10日ほどして再び切損したので、整備業者に原因調査を依頼した。
本船は、ダブルポンプが開放された結果、ロータと側板に損傷が発見され、同ポンプが新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、漁労機器用油圧ポンプの保守管理にあたり、作動油の管理が不十分で、同油が減少して温度上昇により粘度が抵下するとともに、同油が劣化して同油中の異物がダブルポンプのロータと側板間にかみ込み、摺動面が摩耗したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、漁労機器用油圧ポンプの保守管理にあたり、作動油の管理を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、ダブルポンプの損傷が操業に著しい支障を来すものではなかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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