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1999年(平成11年)

平成10年門審第101号
    件名
漁船希尚丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年6月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、清水正男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:希尚丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機1番クランクピン軸受メタルの焼付き、主軸受メタルのオーバーレイ剥離、クランク軸の曲損、潤滑油ポンプの異常摩耗

    原因
主機潤滑油系統機器の点検整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油系統機器の点検整備が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月12日17時30分
鹿児島県吐カ喇沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船希尚丸
総トン数 19.59トン
登録長 17.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 253キロワット(計画出力)
回転数 毎分1,150
3 事実の経過
希尚丸は、昭和49年12月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6R2F-MTK型と呼称するディーゼル機関を装備し、各シリンダは船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめに入れられた約140リットルの潤滑油が直結歯車式の潤滑油ポンプ(以下「潤滑油ポンプ」という。)で吸引・加圧され、潤滑油こし器及び同冷却器を経て潤滑油主管に至り、同主管から各シリンダごとの主軸受に入りクランク軸内を通ってクランクピン軸受を順に潤滑し、更に連接棒内を通ってピストンピン軸受を潤滑する系統、噴霧ノズルから各ピストン内面に噴射されてピストンを冷却する系統、その他カムシャフト、過給機、燃料噴射ポンプなどを潤滑する系統へそれぞれ分岐して給油されたのち、いずれも油だめに戻って循環するようになっており、正常運転時5.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)ないし6.5キロの潤滑油主管圧力が1.3キロないし1.7キロまで低下すると作動するように設定された潤滑油圧力低下警報装置と潤滑油圧力調整弁が取り付けられていた。
希尚丸は、主として愛媛県深浦漁港を基地とし、11月から翌年3月初めにかけての休漁期以外、主に鹿児島県吐カ喇群島周辺の漁場において1航海が3日から4日の操業を繰り返していたが、本船を購入した平成5年以来、主機潤滑油系統機器の開放整備を行っていなかったので、いつしか潤滑油圧力調整弁の作動不良や潤滑油ポンプ及び主機軸受などの異常摩耗が進行して潤骨油圧力が徐々に低下する状況となっていた。
A受審人は、同8年3月から希尚丸の船長として機関の運転と整備管理に当たり、月当り500時間ほどの運転時間に対して、2箇月ないし3箇月に1度の割合で潤滑油及び同こし器のエレメントを取り替えていたものの、同9年5月ごろ潤滑油と同こし器のエレメントを取り替えても潤滑油圧力は、3キロないし4キロしか上昇しなくなったのを認めたが、潤滑油圧力低下警報装置が作動するほど低下していないので大丈夫と思い、早期に整備業者に依頼するなどして主機を開放し、潤滑油ポンプ、主機軸受及び潤滑油圧力調整弁など潤滑油系統機器の点検整備を行うことなく、同圧力が低下したまま運転を続けた。
こうして、希尚丸は、同年10月9日12時10分ごろA受審人ほか5人が乗り組み、深浦漁港を発し、同月11日00時50分ごろ吐カ喇群島中之島西方の漁場に至って操業したのち、翌12日16時30分ごろ同漁場を発し、主機を回転数毎分1,200にして鹿児島県山川漁港に向け航行中、17時30中之島灯台から真方位280度8海里の地点において、急に主機が停止した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、海上は隠やかであった。
操船中のA受審人は、直ちに機関室に赴き主機をしばらく冷却したのち、再始動して回転数毎分900ないし1,000で運転したところ異音に気付き停止回転とした。1番シリンダの辺りから異音があり、主機を停止して全シリンダヘッド、燃料ポンプ及びクランク室内の点検を行ったが、原因が分からなかったので主機を運転しないこととした。
希尚丸は、僚船に曳航されて翌13日17時30分ごろ山川漁港に引き付けられ、のち修理のため高知県佐賀漁港に回航された。
精査の結果、主機1番クランクピン軸受メタルの焼付き、主軸受メタルのオーバーレイ剥離、クランク軸の曲損及び潤滑油ポンプの異常摩耗などが生じていることが判明し、のちに損傷部品は取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、潤滑油及び同こし器のエレメントを取り替えても潤滑油圧力が正常値まで上昇しなくなった際、潤滑油系統機器の点検整備が不十分で、潤滑油圧力が低下したまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たり、潤滑油及び同こし器のエレメントを取り替えても運転中の潤滑油圧力が正常値まで上昇しないことを認めた場合、潤滑油圧力調整弁の作動不良や潤滑油ポンプ及び主機紬受などの異常摩耗が進行しているおそれがあったから、同圧力が低下したまま主機の運転を続けることのないよう、早期に整備業者に依頼するなどして主機を開放し、潤滑油ポンプ、主機軸受及び潤滑油圧力調整弁など、潤滑油系統機器を十分に点検整備すべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油圧力は同圧力低下警報装置が作動するほど低下していたわけではないので大丈夫と思い、潤滑油系統機器を十分に点検整備しなかった職務上の過失により、潤滑油圧力が低下したまま運転を続けてクランクピン軸受などの潤滑阻害を招き、1番クランクピン軸受メタルの焼付き、主軸受メタルのオーバーレイ剥離、クランク軸の曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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