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1999年(平成11年)

平成11年那審第14号
    件名
油送船第三星泉丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年8月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:第三星泉丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
発電機駆動装置出力軸船尾側軸受が摩耗し破損、減速用子歯車及び同大歯車なと損傷

    原因
発電機駆動装置を内蔵した主機減速機の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、発電機駆動装置を内蔵した主機減速機の点検が不十分で、軸受の摩耗が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月14日14時20分
鹿児島県奄美大島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三星泉丸
総トン数 676トン
全長 62.94メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分400
3 事実の経過
第三星泉丸(以下「星泉丸」という。)は、平成元年1月に進水した、専ら九州から南西諸島の各港間において液化石油ガス輸送に従事する鋼製油送船で、可変ピッチプロペラ推進装置を有し、主機として、株式会社赤阪鐵工所が製造したK28FD型と称するディーゼル機関を装備し、軸系に油圧クラッチ式減速機(以下「減速機」という。)を備え、操舵室に設けた遠隔操縦装置によって、主機の増減速、クラッチの嵌脱同プロペラの翼角制御等の各操作が行えるようになっていた。
減速機は、新潟コンバーター株式会社が製造したMGRP1801AVC型で、発電機駆動装置を内蔵しており、主機から弾性継手を経て伝達される入力を、入力軸、油圧クラッチ、減速用子歯車、同大歯車、出力軸、同軸継手から推力軸の順に伝達するほか、同入力の一部が入力軸に取り付けられた発電機駆動装置用駆動歯車によって油圧クラッチと歯車形状がはすば歯車からなる5個の中間歯車を介して増速され、同装置出力軸から歯車継手を介し、減速機の上部後方に設置された定格容量180キロボルトアンペアの発電機(以下「軸発電機」という。)を駆動するようになっていた。
ところで、発電機駆動装置出力軸は、両端が自動調心ころ軸受によって支持され、はすば歯車の回転によって生じる軸方向の推力を、同軸船首側軸受で受ける構造になっており、また、同軸の減速機ケーシング貫通部には、オイルシールを装着し、同ケーシング内の潤滑油の漏洩を防止していた。
また、減速機の各軸受の整備基準については、2年ごとに点検して異状があれば新替えし、4年を使用限度として定期的に新替えするよう取扱説明書に記載されていたが、発電機駆動装置出力軸軸受には、軸方向の推力が繰り返し作用し、同軸受の摩耗の進行が早まり、運転音に異状が生じることがあるから、早期に同軸受の摩耗などの異状が発見できるよう、聴音棒で同軸受の運転音を聞くなどして、減速機の点検を十分に行う必要があった。
星泉丸は、年間の運転時間の平均が5,000ないし6,000時間に達していて、毎年5月頃に入渠するような運航を続け、平成9年5月定期検査工事において、減速機を開放整備し、発電機駆動装置出力軸の両端軸受を、建造依頼初めて新替えしたものの、その後、同出力軸船尾側軸受に軸方向の推力が繰り返し作用して摩耗が進行し、同軸受の運転音が次第に大きくなっていた。
A受審人は、星泉丸に就航後1年を経過したころ初めて乗り組み、以後7ないし8回、通算して約3年の乗船経験を有し、平成10年6月に再び一等機関士として乗り組み、翌7月に機関長に職務変更して主機及び減速機の運転管理にあたっていた。
A受審人は、減速機の整備について、潤滑油の汚損が少なかったことから、同油を1年ごとに取り替え、また、同油の消費分の補給として、年間に15ないし20リットル程度を補給し、同油こし器の掃除を運転時間500ないし600時間ごとに実施していたところ、同9年11月ごろから、前示歯車継手の内部に封入されていたグリースが漏曳し始めていて、グリースの不足による同継手の潤滑阻害に注意を払っていたものの、発電機駆動装置出力軸の軸受については、これまで異状がなかったことから、同軸受が損傷して大事に至ることはあるまいと思い、早期に同軸受の異状が発見できるよう、聴音棒で同軸受の運転音を聞くなどして、減速機を十分に点検することなく運転を続け、同出力軸船尾側軸受の摩耗が進行して運転音が次第に大きくなっていたことに気付かなかった。
こうして、星泉丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、液化プロパンガス210トンを載せ、船首2.5メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同10年8月14日12時10分鹿児島県名瀬港を発し、沖縄県金武中城港へ向かい、軸発電機を使用し、プロペラ翼角度を16.5度、主機を回転数毎分380の全速力前進にかけて航行中、発電機駆動装置出力軸船尾側軸受の摩耗が進行し、14時20分曽津高埼灯台から真方位015度3.2海里の地点において、同軸受が破損し、散乱した破片が減速機内の歯車に噛み込んで異音を発した。
当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、海上には波高3メートルの波浪があった。
機関監視室で当直中のA受審人は、機関室に急行して主機の運転状態を確認したものの異状箇所が分からず、船内電源をこれまでの軸発電機から補機駆動発電機に切り換え、主機を停止して各部を点検していたところ、一等機関士から、前示軸受のオイルシールが飛び出して潤滑油が飛散していたとの報告を受け、とりあえず、同シールを元の位置に押し込み応急処置を施して主機の再始動を試みたが、同出力軸が偏心しながら回転していたので、これ以上の運転は無理と判断し、船長にその旨を連絡した。
星泉丸は、引船により鹿児島県古仁屋港沖に曳航されたのち、修理業者により各部を精査した結果、前示損傷のほか、減速用子歯車及び同大歯車などが損傷していることが判明し、修理可能な場所まで自力航行ができるよう、応急修理を施工し、のち、損傷部品の取替え修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、発電機駆動装置を内蔵した減速機の運転管理を行う際、減速機の点検が不十分で、同装置出力軸船尾側軸受の摩耗が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、発電機駆動装置を内蔵した減速機の運転管理を行う場合、同装置出力軸船尾側軸受に、軸方向の推力が繰り返し作用して摩耗が進行し、同軸受の運転音に異状を生じることがあるから、早期に同軸受の異状が発見できるよう、聴音棒で同軸受の運転音を聞くなどして、減速機の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速機には、これまで異状がなかったことから、同軸受が損傷して大事に至ることはあるまいと思い、早期に同軸受の異状が発見できるよう、聴音棒で同軸受の運転音を聞くなどして、同機の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同軸受の摩耗が進行して運転音が次第に大きくなっていたことに気付かないまま主機の運転を続け、同軸受の破損を招き、減速機の歯車などを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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