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1999年(平成11年)

平成10年長審第36号
    件名
漁船第二幸盛丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年2月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第二幸盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二幸盛丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機のクランク軸、ピストン、シリンダライナ、連接棒、過給機潤滑油入口管等損傷

    原因
主機の運転管理不十分(警報装置の故障と潤滑油の漏油を放置)

    主文
本件機関損傷は、主機の運転管理が不十分で、警報装置の故障と潤滑油管系からの漏油とが放置されていたことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月7日17時00分ごろ
長崎県男女群島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二幸盛丸
総トン数 19トン
登録長 17.36メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 404キロワット
回転数 毎分1,850
3 事実の経過
第二幸盛丸は、昭和58年8月に竣工した一層甲板中央機関室型のFRP製漁船で、上甲板上の中央から船尾方にかけて操舵室、機関室囲壁及び賄室を順に配置し、機関室中央に主機を備え、操舵室の床と賄室の前壁左舷側とにそれぞれ機関室入口を設け、竣工以来、1航海の日数を約10日とし、東シナ海北東海域でのあまだい、れんこだい等を漁獲対象とした延縄漁業に従事していたところ、船速増加の目的で、平成3年1月主機を換装した。
換装後の主機は、昭和精機工業株式会社が平成2年12月に製造した、6LAH-ST型と称する密閉清水令却・セルモータ始動方式のディーゼル機関で、船首側から順に1番から6番までのシリンダ番号を付け、オイルパン内の潤滑油の規定張込量を64リットルとし、下部中央左舷側に検油捧を、上部中央右舷側に排気ガスタービン方式の過給機を、上部後端右舷側に冷却清水タンクを備え、潤滑油管系の一部として、外径17.1ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径9.5ミリの耐油・耐圧性ゴムホースの両側に同ホース圧着端子、ハーフナット、袋ナット等の配管用金具を取り付けた全長850ミリの過給機潤滑油入口管を過給機の直下に配置してあった。
また、主機の発停は、操舵室に設けた主機計器盤上の始動用キースイッチと停止用押ボタンの操作で行うようになっていたが、同盤には、回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計等の計器のほかに、潤滑油圧力低下、冷却清水温度上昇、蓄電池放電等の異状を示す6箇の警報ランプと警報ブザーも備えていた。なお、始動用キースイッチの位置は、GLOW、OFF、ON及びSTARTの四つに区分され、OFFからONにすると、同盤の電源が入って3秒間だけ警報ブザーが鳴るとともに、すべての警報ランプが点灯したのち、蓄電池放電を示すランプ以外の警報ランプが消灯して警報ブザーが鳴り止み、次いでONからSTARTにすると、主機が始動して蓄電池放電を示すランプが消灯し、同スイッチから手を離すと、自動的にSTARTからONに戻るようになっていた。
ところで、A受審人は、本船に竣工時から船長として、長男のB受審人及び次男ほか数人の甲板員とともに乗り組み、竣工当初は息子2人を機関担当者と定めて主機の取り扱いに習熟させ、主機の不具合点が解消してからは次男のみを機関担当者として操業に従事していたところ、漁獲高が次第に減少するので、やむなく乗組員の数を減らしていった。
平成9年3月A受審人は、次男も下船させてB受審人を再び機関担当者としたが、同人は長男であって竣工以来ともに乗り組んでいるうえ、有資格者で主機の取り扱いにも慣れており、また、主機は修理業者にこまめに整備させているため、おおむね5日に1度10リットルの潤滑油を補給する程度で調子がよかったことから、同人に主機のことはすべて任せておいて大丈夫と思い、主機の運転管理について何ら指示していなかった。
一方、改めて機関担当者となったB受審人は、主機の運転管理にあたり、漁場において早朝から20時ごろまで主機を運転していたが、主機始動の際には必ず警報ブザーが鳴ることから、主機警報装置に支障はないものと思い、主機始動時に主機計器盤上の各警報ランプの点灯状態を確認するなどの同装置の点検を十分に行わなかったので、潤滑油圧力の異常低下を検出するための電気配線がいつしか切れていて、主機運転中に同圧力が異常に低下しても、警報ブザーが鳴ることも、潤滑油圧力低下の警報ランプが点灯することもなくなったことに気付かないままであった。
さらに、B受審人は、前述のごとく主機の調子がよかったこともあって、運転中の主機に対しては、機関室内に入って点検するまでもないものと思い、操舵室内の主機計器盤を監視したり、時折、賄室の機関室入口から中をのぞいたりする程度で、管系を十分に点検することなく、いつしか過給機潤滑油入口管のゴムホースの付根に、経年劣化による微細な亀裂を生じて亀裂部から潤滑油が漏れ出したことに気付かないまま、主機の運転を続けていた。
こうして本船は、B受審人が主機オイルパン内の潤滑油を新替えしたのち、両受審人ほか2人の甲板員が乗り組み、燃料、水、氷、えさ等を積み込み、同年10月7日07時ごろ長崎県三重式見港を発し、主機の回転数を毎分約1,400に定めて東シナ海北東部の漁場に向けて航行中、えさの準備を終えて甲板員2人が賄室下方の船員室で休息し、B受審人が操舵室後部のベッドで横になり、A受審人が独りで航海当直にあたっている間に、過給機潤滑油入口管のゴムホースの前示亀裂が次第に拡大し、やがてオイルパン内の油量が減少して主機潤滑油圧力が異常に低下するようになったものの、警報ブザーが鳴ることも警報ランプが点灯することもないうち、オイルパン内の潤滑油が流失し、5番シリンダのピストンとシリンダとが焼き付くとともに、6シリンダのうち5シリンダのクランクピン軸受が焼き付き、同日17時00分ごろ北緯31度40分東経128度42分ばかりの地点において、主機の回転数が急に低下し、油煙が機関室内に立ち込めた。
当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
B受審人は、異変に気付き、A受審人に直ちに主機を中立運転とするように依頼して賄室から機関室に入ったところ、主機が既に停止していて全体的に熱いうえ、オイルパン内の潤滑油が流失しているのを認め、修理業者に連絡して協議した結果、主機の運転不能と判断してその旨A受審人に報告した。
A受審人は、付近で操業中の僚船に救助を求め、来援した僚船に引かれて三重式見港に戻り、損傷した主機のクランク軸、ピストン、シリンダライナ、連接棒、過給機潤滑油入口管等を新替えしたほか、主機警報装置の修理を行ったのち、数回操業に従事したが、翌10年4月本船を売却した。

(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理が不十分で、警報装置の故障と経年劣化した過給機潤滑油入口管からの漏油とが放置され、主機の運転中、オイルパン内の潤滑油が流失したことによって発生したものである。
主機の運転管理が不十分であったのは、船長の機関担当者に対する主機の運転管理についての指示が不十分であったことと、機関担当者の主機の警報装置及び潤滑油管系に対する点検が不十分であったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、機関担当者として主機の運転管理にあたる場合、警報装置の故障や管系の水漏れ、油漏れ等を放置したまま主機を運転することがないよう、同装置や管系の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機始動時には警報ブザーが鳴るので、警報装置に支障はないものと思い、また、主機は修理業者にこまめに整備させていて調子がよかったこともあって、運転中に機関室内に入って点検するまでもあるまいと思い、同装置や管系の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、オイルパン内の潤滑油が流失する事態を招き、クランク軸、ピストン、シリンダライナ、連接棒等を焼損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人が、機関担当者であるB受審人に対し、主機の運転管理について何ら指示していなかったことは本件発生の原因となるが、同人は自分の長男であって竣工以来15年間ともに乗り組んでいるうえ、有資格者で主機の取り扱いに慣れており、また、主機は修理業者にこまめに整備させていて調子がよかった点に徴し、A受審人の所為は、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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