日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年横審第40号
    件名
貨物船第二十五三社丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成11年8月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

吉川進、半間俊士、河本和夫
    理事官
相田尚武

    受審人
A 職名:第二十五三社丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
各シリンダのピストン、シリンダライナにかき傷7番主軸受、伝導歯車ブッシュなど焼損、7番の軸受台変形等

    原因
主機潤滑油の補給管理不十分、主機の保護装置の作動確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機潤滑油の補給管理が十分でなかったこと及び主機の保護装置の作動確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月6日04時20分
京浜港横浜区
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五三社丸
総トン数 485トン
全長 59.10メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分600
3 事実の経過
第二十五三社丸(以下「三社丸」という。)は、昭和63年6月に進水し、主として残土及び鉱滓(こうさい)を運搬する貨物船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が製造した6DLM-28FS型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、一体鋳物製のシリンダブロックと、主軸受台を有する台板とがタイボルトで締結され、クランク軸の最後部を7番主軸受で支え、その後部に外部との境界として油切りを有し、台板の下に油だめとして内容量390リットルの潤滑油タンクを取り付けていた。
主機の潤滑油は、油だめから主機直結の潤滑油ポンプは電動機駆動の補助潤滑油ポンプで汲み上げて加圧され、潤滑油冷却器と圧力調整弁で温度及び圧力を調整されたうえピストン冷却油と軸受抽とに分岐し、前者が各シリンダ毎に噴射ノズルを通してピストンクラウンの冷却室に入り、また後者が主軸受、伝導歯車等に入り、それぞれ冷却、潤滑ののち台板に落ち、油だめに戻るようになっていた。
油だめは、長さが主機台板と同じ2,715ミリメートル(以下「ミリ」という。)幅640ミリ深さ250ミリの鋼板溶接構造で、台板底部との合せ面に内径140ミリの連絡口が4箇所設けられ、両潤滑油ポンプの吸込内管を左右両舷に配置していた。
油だめの吸込内管は、呼び径80ミリの鋼管製で、5番シリンダ直下付近にある後端部の上半分に、ちどり格子状に打ち抜かれた多孔板(たこうばん)を長さ190ミリにわたって取り付けて吸込口とし、油だめの船首端で角フランジを通して両潤滑油ポンプの吸込管に接続していた。
油だめの潤滑油量は、台板と併せた油量として台板左舷側に斜めに差し込まれた長さ630ミリの検油棒で確認するようになっており、等喫水のとき同棒の先端から30ミリの位置に刻まれた低位で510リットル、更に130ミリ上に刻まれた高位で710リットルであったが同棒の取付け位置が主機後部であったので船尾トリムのときは実際の油量より多く表示されるようになっていた。
ところで、主機の保護装置は、運転中にピストン冷却油圧力が1.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力は「キロ」で示す。)以下に、また軸受油圧力が2.5キロ以下に低下すると警報盤で各々警報を発し、同圧力が2キロ以下になると危急停止させるもので、それらを運転中に機能させるためのリミットスイッチを主機発停ハンドルに付設していたが、経年の操作で同ハンドルとカムを合わせるキー溝が摩耗し、運転状態でもカムがリミットスイッチを十分に押さなかったので、警報信号を発生せず、また危急停止機能が作動しなくなっていた。
A受審人は、平成9年11月に機関長として乗船し、機関の運転と整備に当たり、主機の潤滑油については前任者からなるべく低い油面で運転するよう引継ぎを受けていたこともあって、乗船当初には船尾トリムの大きい空船時に同油量を計測し、検油棒の先端付近に油面が保たれる程度に同油の補給をしていたが、いつごろからか同油量の点検と同油の補給をすることなく運転を続け、同油量の減少に気付かず、また、主機の保護装置の作動を確認しなかったので、同油圧力低下警報が発せられず、危急停止機能も作動しなくなっていることに気付かなかった。
こうして三社丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、約780トンの残土を積み、船首4.0メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成10年4月6日03時30分京浜港横浜区第1区の鈴繁岸壁を発し、千葉県館山港に向かい、主機を回転数毎分約590として運転中、潤滑油量が減少していた油だめの中で吸込内管が油面上に露出し、潤滑油ポンプが空気を吸って潤滑油圧力が低下したが、同圧力低下警報が発せられず、危急停止機能も作動しなかったので運転が続けられ、潤滑が阻害された7番主軸受が異常摩耗し、また、ピストンが過熱して膨張し、04時20分日産本牧ふとう灯台から真方位117度1.0海里の地点で、オイルミスト放出管から白煙が大量に噴出し、主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹いていた。
A受審人は、連絡を受けて機関室に赴いたところ、同室内に白煙が充満していたので直ちに船橋に連絡して主機を停止し、クランク室を点検して6番シリンダ付近が最も過熱していることを認め、また潤滑油量が確認できないほと少なかったので、同油を補給して主機を始動し、減速して同港横浜区本牧ふ頭まで運転した。
三社丸は、接岸後、依頼を受けたメーカー代理店によって主機の6番ピストンが抜き出され、ピストン、シリンダライナ、ピストンリング及びクランクピンメタルが取り替えられたのち、7番主軸受が点検されないまま同月9日08時再び離岸して館山港に向かったが、増速するとまもなく機関後部の油切りの付近から白煙を吹き始めたので航行を断念して主機を停止し、同港までえい航され、のち精査の結果、各シリンダのピストン、シリンダライナにかき傷を生じ、7番主軸受、伝導歯車ブッシュなどが焼損して異常摩耗し、7番の軸受台が過熱で変形し、またクランク軸ジャーナルが異常摩耗していることがわかり、クランク軸、台板など全ての損傷部品が取り替えられた。

(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油の補給管理が不十分で、油だめの潤滑油量が減少して潤滑油ポンプが空気を吸ったこと及び主機の保護装置の作動確認が不十分で、潤滑油圧力低下警報が発せられず、危急停止機能も作動しないまま主機が運転されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転に当たる場合、潤滑油が不足して潤滑油ポンプが空気を吸わないよう、定期的に潤滑油量の点検と同油の補給を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、なるべく低い油面で運転するよう、船尾トリムの大きい空船時に検油俸の先端付近に油面が保たれる程度に同油の補給をするうち、いつごろからか同油量の点検と同油の補給をしなくなった職務上の過失により、同ポンプが空気を吸って主軸受などの潤滑阻害とピストンの冷却不足を招き、ピストン、シリンダライナ、クランク軸、台板などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION