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1999年(平成11年)

平成9年横審第95号
    件名
貨物船島田丸火災事件

    事件区分
火災事件
    言渡年月日
平成11年1月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

川原田豊、勝又三郎、河本和夫
    理事官
花原敏朗

    受審人
A 職名:島田丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
焼損が甚だしく廃船

    原因
ゴムホースの点検不十分(経年硬化)

    主文
本件火災は、ガス冷蔵庫を取り扱うに当たり、プロパンガスを導くゴムホースの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月2日14時28分ごろ
遠州灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船島田丸
総トン数 198トン
登録長 53.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
3 事実の経過
島田丸は、昭和59年1月に進水した、航行区域が沿海区域の船尾船橋型貨物船で、船橋楼の上甲板の乗組員居住区には、機関室囲壁の左舷にギャレーが設置され、同甲板の上の船橋下が空所になったボートデッキ後部の、煙突左舷側のボート付近に、容量20キログラムのプロパンガスボンベが2本置かれていた。
ギャレーには、調理台や食堂のテーブルのほか、備品として電気冷蔵庫と電源不要の吸収式ガス冷蔵庫、調理台やガスコンロなどが備えられ、機関室囲壁に接して設置されたガス冷蔵庫とガスコンロには、ボートデッキのボンベからのプロパンガスが、同囲壁に取り付けられたガスの元栓までを銅製配管で、元栓からはゴムホースでそれぞれに供給されており、ガス漏れ警報器は備えられておらず、ガス冷蔵庫ではプロパンガスが、バーナーで常時種火状に燃焼されていて、冷媒のアンモニアを循環させる加熱源となっていた。
ガス冷蔵庫は、床に固定された容量138リットルの高さ約1メートル幅54センチメートル奥行き50センチメートルの大きさで、背面の上下に凝縮器や蒸発器、受液器など冷媒の循環経路が取り付けられ、下部の受液器を出てバーナー部で加熱され発生器で気化状態となった冷媒が液化・蒸発を繰り返しながら、上下に循環する過程で庫内を冷却するようになっていて、床付近に取り付けられた元栓からのプロパンガスが、長さ40センチメートルほどのゴムホースと、冷蔵庫の配管を経てバーナーに導かれており、同配管にサーモスタットによるガス供給遮断の安全装置が、また冷蔵庫の前面下部に操作装置として、バーナーの点火つまみと覗き窓及び温度調節ダイヤルが備えられていた。
本船は、平成7年11月下旬に定期検査のあと買船され、運航者のR株式会社が裸傭船のうえ、新たに雇入れされたA受審人のほか船長と甲板長が乗船し、その際同社の担当者も立ち会って居住区の備品等を点検し、乗組員居室の暖房器員を新たに購入して取り替えるとともに、著しく汚損衰耗していた調理台のガスコンロと、経年的に硬化して元栓へのはめ込みが緩くなったゴムホースを取り替えたが、同様な状態であったガス冷蔵庫のゴムホースは、その陰になっていたので誰も気付かず、点検されないままになっていた。
同年11月21日より本船は運航され、前示3人が乗組み、A受審人が一人で機関当直に、また船長と甲板長が交代で船橋当直にそれぞれ当たりながら、北九州と京浜港の各港間での鋼材等の輸送に、同月に2航海のあと翌12月以降翌8年1月末までに各8航海の計18航海従事した。
A受審人は、適宜に機関当直に当たる一方で賄いも担当し、ガス冷蔵庫に買い込んだ食料などを貯蔵し、船内が無人のときは元栓を閉めていたところ、元栓とつながるゴムホースについては、それが古くなると危険である旨明記した取扱説明書は紛失したのか備え付けられていなかったが、ガス冷蔵庫を今までに取り扱った経験があり、冷え具合も良く使用中に異常を認めなかったことから大丈夫と思い、経年的に硬化してき裂やはめ込みに緩みを生じた同ホースを点検することなく使用を続け、それがガス漏れするおそれのある状態であったことに気付かなかった。
こうして本船は、鋼材約394トンを積み、同8年2月1日14時40分京浜港川崎区を愛知県衣浦港向け出港し、荒天のため途中静岡県伊東港に避難して仮泊後、翌2日05時航行再開して船内通風装置を停止のまま主機を全速力に運転し、時化のため船体動揺しながら御前埼を航過したあと、針路をほぼ真方位260度として約8ノットの速力で航行中、いつしかガス冷蔵庫のゴムホースにはめ込みの緩みなどを生じ、漏洩して床付近に滞留したプロパンガスにバーナーの火が引火して周囲に燃え広がり、同日14時28分ごろ御前埼灯台から真方位274度10.3海里の地点において、ギャレー及びその周辺が火災となった。
当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、海上は時化模様で最大波高約4メートルの波があった。
船橋当直中の甲板長と在橋していたA受審人は上がってきた煙の異臭で、また当直交代後自室で仮眠中の船長は息苦しさで目覚め、いずれも居住区内の火災に気付き、備付けの消火器を使用したり上甲板の船橋楼両舷の消火栓から放水したが、火勢が非常に強いため消火困難となって船首に避難した。さらに本船は、主機及び発電機とも自然に停止したため投錨し、他船の通報により来援した海上保安庁のヘリコプターで乗組員は全員救助されたが、船橋楼などの焼損が甚だしく、廃船となった。

(原因)
本件火災は、ガス冷蔵庫を取り扱うに当たり、プロパンガスを導くゴムホースの点検が不十分で、経年硬化した同ホースから漏れたプロパンガスに、熱源として燃焼中のバーナーの火が引火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、ガス冷蔵庫を取り扱う場合、元栓とつながるゴムホースの経年的な硬化が認められ、ガス漏れするおそれのある状況であったから、同ホースを十分に点検すべき注意義務があった。しかし同人は、冷え具合に異常を認めなかったことから大丈夫と思い、同ホースを十分に点検しなかった職務上の過失により、はめ込みの緩みなどを生じた同ホースからプロパンガスが漏洩し、バーナーの火が引火して火災発生に至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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