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4-2. 研究B―ケーススタディーでの駆除効率実験

 

(1) 背景と目的

これまで多額の予算を投入しオニヒトデの食害からサンゴ礁を守るためにオニヒトデ駆除が行われてきた。駆除は、オニヒトデの個体群をある許容される密度よりも低く抑えることを目的とし、それによってサンゴ礁の劣化を食い止めようとするものであったと考えられる。しかし、従来の駆除事業では多くの場合、あたかもオニヒトデを漁獲対象とした漁業のように駆除すること自体が目的化してしまったようである(山口1986、辰喜1976)。また、オニヒトデの個体数は記録しても、駆除がオニヒトデ個体群に及ぼす影響は充分に調査されてこなかった。つまり、巨額の予算が投入されてきたものの、駆除の効果の評価はされてこなかった。これは、例えばオーストラリアのグレートバリアーリーフで駆除の効果が常に問題視されてきたことと好対照を成す(Zann & Weaver 1988, Johnson, Moran & Driml 1990, Kenchington 1987, Johnson, Moran & Driml 1990, Kenchingon & Kelleher 1992, Fisk & Power 1999)。

ある程度以上の面積のサンゴ礁のオニヒトデを一匹ずつ取り上げる方法で完全に駆除することはオニヒトデの行動からみて非常に困難である。また、前節Aの実験から、オニヒトデの移動速度が最大70m/日と大きいことが明らかになったため、駆除を行った後に外部からオニヒトデが侵入してくることは間違いない。Fisk and Power(1999)は、より効率的な駆除方法を提案するために異なる方法による駆除効果を比較し、a)一回だけの駆除では、取り残しや周囲からの移入のために十分なこうかが期待できない、b)したがって、少ない努力量でも頻繁に駆除を行う必要がある、c)また、その頻度はサンゴ礁の地形やサンゴ被度などの条件によって大きく異なることをしめした。この調査の目的は、異なる方法で駆除作業を実際に行い、その効果を比較し、より有効な駆除方法を考察することである。そのために、オニヒトデ個体群の動態を、「ケーススタディ」と組み合わせて調査することとした。また、必要なデータを得るためのコストについても考察する。

 

(2) 方法

i. 残波岬を調査地点として選定した。残波岬は、本事業の「現況調査」により沖縄全域でもっとも高い分布密度が認められた地域であり、本島沿岸では唯一、駆除にあたいするほどの分布密度のオニヒトデ個体群が認められた地域であった。また前節の「裾礁での行動実験」を実施した地点でもある。残波岬は読谷村に位置する風光明媚な観光名所である。近辺にはいくつかのリゾートホテルがあり、サンゴ礁を含めた景観は重要な観光資源である。

ii. 残波岬周辺のサンゴ礁は、読谷漁協が運営するダイビングショップ(トップマリン)などが頻繁に観光ダイビングを実施する場所である。そのようなことからトッブマリンは漁協や村役場の協力を得て、近辺のダイビングショッブと共同でオニヒトデ駆除を実施してきた実績がある。これらの状況から見て、残波岬は駆除ケーススタディーを行える唯一の場所と判断した。

 

 

 

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