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第4章. 行動特性調査

 

4-1. 研究A―裾礁での移動実験

 

(1) 背景と目的

沖縄では1960年頃からオニヒトデの大量発生が報告され、度重なる駆除事業が実施されてきた(Yamaguchi 1986)。オニヒトデの駆除は沖縄だけでなく、グアムやパラオなどの太平洋島嶼諸国でも実施された(Birkeland & Lucas 1990)。沖縄では、1970年から1983年までの間に6億円を投入し1300万匹のオニヒトデを駆除した(Yamaguchi 1986)。しかし、サンゴ礁をオニヒトデの食害から守ることはできなかった(Yamaguchi 1986)。以来、沖縄の例は、オニヒトデ個体群の人為的な制御の困難さを説明するための典型的な例として頻繁に引用されることになった(eg. Birkeland & Lucas 1990, Sapp 1999)。

沖縄に限らず過去の駆除が所期の目的を達しなかった理由として、水中での駆除作業の困難さや個体数が膨大であったことのほかに実施体制や方法の不適切さが指摘されている。例えば、オニヒトデの買い上げ制を導入したために駆除はあたかも漁業活動のひとつのようになってしまった。つまり、大量発生しているサンゴ礁で駆除が進むにつれ最初は高い採取効率であったものがやがて低下してしまう。すると、その地点の駆除を不完全にしたままよそのより高密度な、つまり漁獲効率のよい、サンゴ礁に駆除の努力量が移動してしまう。その結果、取り残されたオニヒトデ個体群はさらにサンゴを食害しつづけることになる(Yamaguchi 1986)。

このような事態を招いた一因としては、駆除そのものには予算がついても、調査費用が不充分なため駆除効果を追跡調査したり、駆除域内への外部からのオニヒトデ移入について調査が十分に行われなかったことが挙げられる。そこで今回の実験では、特に、ある区域を完全に駆除し、駆除の取り残しの可能性を排除した上で、その後外部からオニヒトデ成体が移入してくる状況を追跡した。そうすることにより、駆除の効果を維持するために必要な駆除の頻度や緩衝帯の幅を見積もるとができると期待した。

 

(2) 方法

i. 沖縄県全域で実施した概略調査で最も高密度のオニヒトデ個体群が観察された残波岬北岸を実験域として選択した。ここは急峻な30mほどの崖の前面に肩約100m、水深5から10mほどの裾礁が東西に広がる。実験は1999年9月9日に開始した。

ii. サンゴの被覆度とオニトデの分布に関してできるだけ均一な一辺50mの正方形の区域を設定した(図1)。この範囲には37個体のオニヒトデが生息していた。オニヒトデの直径は平均31.5cm±1.39SEであった。

iii. 30m四方の“駆除域”とその周辺に10m幅の“周辺域”を設定した。駆除域のオニヒトデを完全に除去した(6匹)。周辺域のオニヒトデ全個体(31匹)それぞれに3切れのプラスチックテープ(約1.5cm×2.5cm)を棘にはめることにより標識をつけ、個体の位置を記録した(Birkeland 1991、Keesing & Lucas 1992、写真1、図2)。

 

 

 

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