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操縦性能暫定基準の経緯と今後の対応

九州大学 貴島勝郎

 

1. 操縦性能暫定基準の経緯

海難事故の主な例をあげると、1978年3月Amoko Cadiz号、1989年3月のExxon Valdez号、1993年1月Braer号そして同年1月Maersk Navigator号の事故等、数え上げれば枚挙にいとまがない程数多くの海難事故が世界の各地で発生している。中でも英仏海峡で発生したAmoko Cadiz号の事故では操舵装置故障後に漂流、座礁そして積荷の原油が流出したもので、海洋汚染により近辺の沿岸諸国が多大な被害を被った例は世界が注目した。

この事故を契機として、IMO(国際海事機関)では人命安全、海洋環境保全の立場から、航行の安全性を把えると同時に、操縦性能に対する重要性が認識され、MSC(海上安全委員会)の指示のもとに、この問題の本格的な検討が始まったのが約19年前である。検討開始以来、今日に至るまでIMOにおいては操船ブックレットA.209(VII)の改正に伴う新たな操船ブックレットとしての総会決議A.601(15)、そして船舶の操縦性能に関する暫定基準を総会決議A.751(18)として採択している。

海難事故の要因には人的要因、船体固有の性能不足による要因そして不可抗力等に分類できると考えられるが、船の設計者・建造者の立場から考えれば、少なくとも船の性能不足が原因となるような事故を防ぐことは不可欠なものと思われる。IMOの設計設備小委員会(以後DE小委員会と呼ぶ)でこの設計者の立場から船の安全性、航行の安全性について検討を進めてきた。

DE小委員会での検討の基本的な問題は、

(1) 操船者に本船の諸性能を熟知してもらうにはどのような情報を提供すればよいか

(2) 設計の段階で船の操縦性能を推定・評価し、要求される性能に対してどのように対処すればよいか

の2点が大きな柱となった。

即ち(1)は完成された船の性能を海上試験や計算等あらゆる角度からできるだけ正確に把え、操船者に提供するというもので、安全性の観点からはどちらかと言えば受身的な対処と言える。これに対して(2)は、操船者にとって操船上問題のない、あるレベル以上の性能を有するように船の設計の段階で推定し評価することによって、少なくとも性能不足による事故だけは防ごうとする対処の仕方であり、これは安全性の観点からは積極的なアプローチと言える。無論のこと、この両者は何れも互いに必要不可欠なものであることは言うまでもない。これらの検討の流れ図を示したものが図1である。

 

 

 

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