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なおこうした防護を実効的なものとするために、同条約は内水または海港に立ち入る国を事前に明らかにし、通報する義務、また通報された情報の秘密保護などの規定を設けている。単なる領海通過の場合については、せいぜい国際法に適合する範囲内で防護措置をとることを義務づけられるにとどまる(3条および4条7項)が、いずれにせよ領海通過の禁止を認める趣旨の規定ではない。もっとも高度の有害性を有する物質を輸送する船舶について、国際基準による規律がない場合には、沿岸国が事前許可(prior authorization)は不可能であるとしても、事前通報(prior notification)を求めること自体は合理的である。(Laura Pineschi, The Transit of Ships Carrying Hazardous Wastes through Foreign Coastal Zone, F. Francioni and T. Scovazzi(eds.), International Responsibility for Environmental Harm(1991), pp. 299-316, esp. p. 309.)ただし事前通報は通航への同意権を意味するわけではなく、通航船舶の側では予防原則適用の措置の一つの発現であり、また沿岸国の側には特別の安全確保措置の実施を要求することになろう。

(12) コルフ海峡事件において、裁判所は、結論的には無害性を認定する逆の例ではあるが、イギリス艦船の戦闘陣形への配置、乗組員の臨戦配置などの事実があったにもかかわらず、これを「武力による威嚇」とはみなさず、通航の目的や事件の全体的な文脈を判断して、通航の「態様」を無害と認定している。

(13) ニカラグァ事件判決、ICJ Reports 1986, p. 111.

(14) かつては領海に対する沿岸国の権能の性質を地役権として捉える説もあり、その説のもとでは、国際法が定める特定の事項についてのみ沿岸国は立法管轄権を及ぼして規制することができるにとどまるということになり、たとえ外国船舶の通航が有害である場合でも、当然に沿岸国法令を領海に適用してその船舶を取り締まることができるわけではないということになる。

(15) 領海の法的性質に関する議論の進展については、O'Connel, Law of the Sea, vol. 1, Ch. 3, esp. pp. 59-82、参照。

(16) この国際航行への配慮が国際礼譲(international comity)として行われるのか、それとも国際法上の義務としてなさなければならないのかについては、伝統的にイギリスとフランスその他の国との間に考え方の違いがある。なお、Churchill and Lowe, op.cit., pp. 95-100.

 

 

 

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