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排出違反の場合については、第2部3節27条の規定には220条2項のような執行の手順に関する規定はないから、27条がこうした場合についても適用可能であるとすれば、220条2項の規定は27条の汚染への適用上、厳しい手続的な制限をかけているともいえる。もっとも27条は、元来、船舶抑留を予定した規定ではなく、船舶上のいずれかの者を逮捕するために刑事裁判権を行使する場合の規定である。また第2部3節には無害通航中の船舶に対して沿岸国の介入を認める他の規定は存在せず、まして無害通航中の船舶を抑留することを認める規定はない。

これに対して220条2項の場合は、船舶の抑留をも認めている点で、第2部3節に対する特別法としての意味をもつ。ただし沿岸国法令違反によって逮捕されるのはあくまで違反行為に責任ある者であり、したがってここで船舶抑留(detention of the vessel)が認められているのは、行政措置たる船舶備付文書の審査としての物理的調査(physical inspection)から、さらにそれ以上の物理的調査あるいは刑事裁判権の行使としての捜査(investigation [27条])に進む際に、それら調査(investigation [226条])が常に海上において可能であるとは限らないことによるものと思われるが、さらに実際上の必要として、後に述べる担保金その他の金銭上の保証による船舶の早期釈放(226条1項(b))と関係があるもののように思われる。なお沿岸国としては船舶を抑留することなく手続を開始することは可能であるが、220条2項はそれら手続を開始するに際して沿岸国に「証拠によって正当化される」かどうかを確認することを明文で求めており、これも第2部3節にはない手続的な制限であり、沿岸国が航行利益に不当に介入することを抑制する規定といえよう。

27条でも、沿岸国は船舶上のいずれかの者を逮捕する場合に、航行上の利益を妥当に考慮することを義務づけられているが、これはいずれかの者が逮捕されることによって船舶への配乗の国際基準の充足に欠損が生じ、結果として国際基準に準拠した航行ができなくなることを考慮して、その点への沿岸国の配慮義務を定めたものであり、沿岸国は、「犯罪の重大性と運航阻害の危険とを比較衡量して航行利益に妥当な考慮を払う必要がある」(25)とされる。220条2項の場合には、沿岸国による航行利益への配慮は担保金その他の金銭上の保証による早期釈放の制度で担保されているから、航行利益への妥当な配慮義務を定める規定はない。したがって220条の規定が27条の規定の特別法であると解される限りにおいて、沿岸国は執行上、同様の配慮義務を負っているというべきであろう。

 

 

 

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