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(3) 寄港条件による規制

外国船舶の領海通航に関する規定は、二つの異なる規制を同時に規定している。つまり外国船舶が沿岸国の内水あるいは内水の外にある港湾施設に立ち入ることなく領海を通過する場合(以下、領海通過)と、内水に向かってまたは内水から(内水外の停泊地、港湾施設からの出入りを含む)航行する場合(以下、内水出入)である。この両者が「通航」として定義されているが、これは領海にある船舶に対する沿岸国の管轄権あるいは管理の権能を併せて規定するためであり、港湾への外国船舶の立ち寄りを許可する沿岸国の伝統的な権限を変更する趣旨ではない。1930年の法典編纂会議の草案からすでにこうした扱いが一般であり、国際司法裁判所も、内水出入りのための通航についても無害通航権が適用されることが既に慣習国際法となっていることを認めている(13)

しかし内水出入船舶と領海通過船舶では、沿岸国の規制の権限には相当の違いがある。たとえば沿岸国の保護権に関する規定は、内水出入のために領海を通航する船舶について、寄港条件への違反を防止するために沿岸国が適当な措置をとることを認めている(25条2項)。寄港条件については沿岸国の立法政策を規制する国際法は存在しないので、排出規制、船舶の構造・設計・設備等の規制、乗組員の配乗規制(CEDM)のほか、海上人命安全条約(SOLAS)のもとでの船舶航路制度(Ships' Routeing system)、船舶通報制度(Ship Reporting Systems, SRS)、船舶交通管制(Vessel Traffic Services, VTS)などの航行上の規制の遵守を要求することもできる。寄港条件の遵守が合理的に期待できない船舶については、 沿岸国は入港を拒否することができる。 ただ一般の場合には、そうした船舶であっても単なる領海通過に切り替える可能性がある限りでは、通常の無害通航権は保持されるから、領海への入域までをも拒否することはできない。しかし領海通過ではなく、海難などにより構造的欠陥を生じそもそも堪航性を欠いているために、領海への入域の目的が客観的にみて強行接岸あるいは沈没を避けるための座礁にあることが明らかであるような場合には、内水への出入りの条件を遵守することが不能であることを理由に、領海への入域そのものを拒否できるとする例外的な場合はあり得るであろう(14)

 

 

 

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