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1. 海洋環境改善技術導入のための基本的な考え方と手順

 

1.1 基本的な考え方

 

(1)沿岸海域環境をめぐる背景と本調査の位置づけ

陸域の人間活動によって排出される物質は、河川を通じて海域に負荷される。特に背後に大都市を抱え、高度に利用される内湾の沿岸域では、地形的に外海との海水交換が制限されていることもあって物質が蓄積しやすく、水質汚濁が急速に進行してきた。沿岸海域における環境問題の多くは陸域からの負荷に起因しており、そのため、環境改善計画は負荷源となる河川流域全体を視野に入れて検討することが不可欠である。現在、沿岸海域とその流域においては、図-1.1.1に一例を示すように、多岐にわたる法制度や基準の下で、環境改善に向けて多分野の行政機関による様々な方面からの取り組みがなされている。

我が国では昭和40年代の高度経済成長に伴って産業排水の問題が顕在化し、工場地帯周辺では「死の海」「死の川」と呼ばれるような著しい環境悪化が進行した。しかし、排出負荷の削減に取り組んだ結果、現在では人間の生命に関わるような重大な環境汚染は解消され、沿岸海域の汚濁問題も一時期に比べれば沈静化している。これは水質汚濁防止法によって排水規制対策がとられるようになったことなどによる成果といえる。しかし、問題は全て解消されたわけではなく、とくに一般家庭からの生活排水に対しては、下水道や合併処理浄化槽の整備などの対策が進められているものの、窒素やリンそのものを除去する高度処理技術の普及といった多くの課題が残されている。

沿岸海域では、陸域からの負荷とそれに起因する汚濁被害に対し、様々な対策がとられている。代表的なものは覆砂や浚渫など、底泥中に蓄積された物質に対する対策である。また、埋立等の開発に伴う干潟等の消失も沿岸域の浄化作用の低下を引き起こすため、これらの保全や創造も重要な課題として注目されている。

沿岸海域の環境悪化を解決するためには、まず海域への流入負荷削減対策をさらに強化、推進することが最重要な課題である。しかし、一旦海域へ流入した栄養物質に着目すると、現在のところ抜本的な対策はとられていない。本来、陸域からの負荷は、海域において移流、拡散、食物連鎖、漁業活動など、様々な要素や過程を経て陸域へと循環している。本調査研究では、このような沿岸海域本来の物質循環システムに着目し、海域に流入した栄養物質に対してどのような考え方で改善技術を適用することが望ましいか、その手順や今後の課題について検討を行った。

 

 

 

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