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7. 北極海航路の今後

 

北極海航路の啓開は、航路の大半についてロシアが領土権を確立するまでは、喜望峰を廻る南方航路同様、利害を伴う国々によって啓開の努力が試みられた。しかし、ロシアの支配権が次第に鮮明になると共に、ピヨトル大帝以降、形姿を変えはしたが、ロシアの国益を守るための国策として、連綿と啓開の努力が続けられ、NSRは永くロシア一国の航路として認識されてきた。NSRの国際商業航路としての開放宣言とINSROPを代表とするその後の活動の全ては、あくまで啓開への努力の第一歩であって、それで商業航路が確立すると言う類のものではない。真の商業航路の確立には、何よりも、多くの商業運航実績が必要であることを、歴史が教えている。

また同時に、商業航路の啓開後の健全な航路発展には、それが資源開発であれ、資源輸出であれ、航路沿いの地域社会の発展が不可欠であることは、かつての商業航路啓開史が示している。その意味で、NSRの今後は、先ずNSR運営の当面の採算性は棚上げにするとして、国際海運市場においてNSRが魅力あるものとしての条件を整えられるか否かに依存している。併せて、ロシア経済を早急に復興させること、あるいは少なくとも経済復興への明快な見通しを提示し、国際資本の導入を図ることが望まれよう。

 

1997年、ロシア連邦構成主体の指導者が大統領の任命制から住民の直接選挙によって選ばれることになったことは、NSR関係地方の自力発展の道を開き、自治権強化への第一歩でもある。しかし、今後の中央・地方政府の関係を如何に構築して行くかは、NSRの将来性云々以前に、ロシアが連邦としての国体を維持できるかに関る重大事である。現在中央・地方政府間には縦割りの指揮命令関係は存在せず、憲法上は対等の立場にあり、権利・義務に関る相互合意によって曖昧な関係が成立している。これは、権益の配分方式、賠償など直接利権の絡む問題が生じた場合、合意に達するまでのプロセスが容易でないことを示唆している。

地方にあっては、豊かな資源に恵まれながらロシア中央部にあって資源輸送に問題を抱えるクラスノヤルスク州の動向がNSRの具体的な発展の上で最も注目されよう。また、サハリン石油・ガス開発は、NSR東端部からの潜在的航路啓開刺激効果が期待される。しかし、このような刺激効果よりは、1995年ロシア議会で採択され翌年発効となったPS法(プロダクション・シェアリング:生産物分与協定法)に拠る、融資売鉱からプロダクション・シェアリングへの転換好例としてのロシア資源の国際化効果が、間接的ではあってもNSRにとって重要な意味を持つ。ロシア国内経済・政治に絶対的に支配されるのではなく、国際市場によって資源開発のシナリオが構築され得るからである。ただし、資源開発のような長期プロジェクトをPS方式で行う場合の必須条件は、ロシアが法的に安定していることであることは言うまでもない。法的に安定するための条件は、政治経済の安定であることを考えると、PS方式の今後が楽観できる訳ではなく、その意味でもサハリン・プロジェクトの成否が多くの関心を集めている。

ロシア以外のCIS(独立国家共同体)諸国は、それぞれ、経済、エネルギー資源等におけるロシア依存が著しい。昨今のロシア経済の混乱は、CIS諸国に深刻な経済危機をもたらし、至難の問題ではあるがロシア依存からの脱皮が問われ、図られようとしている。

 

 

 

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