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しかしながら、北極海を含む氷海域の特殊性を考慮し、これに特化した規範・規準を設けているものは数少ない。国連海洋法条約においては、第12部「海洋環境の保護及び保全」の中に第8節「氷に覆われた水域」を設け、排他的経済水域内に氷結域を有する沿岸国に対し、船舶からの海洋汚染の防止・軽減及び規制のための法令の制定・執行の権利を認めている(234条)が、これ以上の規定はない。なお、本条の条文の詳細については4.3節を参照されたい。一方、MARPOL条約では、附属書I及びVにおいて、船舶からの油及び廃物を対象として、これらの排出についての規制を強める特別海域(special area)に南極域を加える改正が1990年に採択(1992年発効)されているが、北極海については特別海域としての指定はまだ無い。

このように北極海の環境保護については、国際法という観点からはまだ立ち遅れた状態にあると言えようが、一方、これを目的とした様々な活動が行われている。この中で、環北極海諸国のカナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカ合衆国及び関係地域の代表により構成される北極圏評議会(Arctic Council)はこのような活動の中心的存在であり、北極海を含む北極圏の環境保護を目的として、北極環境保護計画(Arctic Environment Protection Strategy:AEPS)の下、多方面からの国際的活動を行っている。北極圏評議会ではその活動の目的として5種類の項目を挙げているが、その一つに北極海の環境保護(The Protection of the Arctic Marine Environment:PAME)がある。PAMEは北極海の環境を各種の汚染から保護するための手法の確立、特に国際機関、国際法を通じての確立を目指すものである。北極圏協議会関係諸国はPAMEの一環として、MARPOL条約において北極海を特別海域に指定、あるいは、特に環境破壊が起き易い海域(particularly sensitive area)と規定するようIMOの中で働きかけている。

一方、4.1節に述べたように、極域における船舶の航行全般についての規定を示す"The International Code of Safety for Ships in Polar Waters(Polar Code)"制定に向けての動きもある。Polar Code原案では、極域を航行する船舶の構造・装備等に対する要件に加え、環境保護についての規定も盛り込まれている。これによれば、通常運航時の船舶からの汚染物質の排出は、MARPOL条約の特別海域についての規準あるいは沿岸国の定める規準のうち厳しい方とすることが求められる。

 

(3) ロシア国内法

ロシア国内法における環境保護に関する認識は、まずその根本法規である、連邦憲法に見ることができる。1993年に制定されたロシア連邦憲法では、その第9条において、国民生活の基本的要件として、土地及び天然資源の保護と使用について述べている。また、第36条では土地及び天然資源の所有について述べているが、これらは環境にとって有害なものであってはならないとしている。一方、第42条では、快適な環境の享受とこれに関する情報を得る権利並びに環境破壊により蒙った被害の補償について述べている。

一方、環境保護についての中心的法規は環境保護法(The Environment Protection Law)である。本法律はソビエト政権下の1991年に制定されたが、1992年及び1993年に一部改定された。環境保護法では、環境保護のための概念を示すと共に、これを達成するための基本的機構、保護の対象、事故等による環境破壊・被害の補償、環境規準の設定、環境保護技術、企業体等への規制、等についての原則が示されている。

 

 

 

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