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船舶に起因する環境汚染は、一般に、汚染領域が広く、また、その影響及び対策が国際的な性格を有するものとなる。このため、船舶からの廃棄物あるいは事故時における有害物質の流出等による環境汚染の防止・軽減を目的として、国連等の国際機関あるいは関係諸国による条約等の国際法が比較的古くから整備されてきた。この一方、各国政府も、それぞれの独自の観点から、あるいは国際法に対応する目的で、船舶からの環境汚染に対する国内法を制定している。特に、NSRの国際航路としての利用を考えると、これはロシアの排他的経済水域、領海、あるいはロシアが主張するところの内水域を様々な船籍を有する不特定多数の船舶が航行することを意味し、このような船舶に起因する環境汚染に対しては国際法、ロシア国内法、両面からの検討が重要である。

本節では、まず、船舶に起因するものを中心とする環境汚染についての国際法を概説する。次に、北極海に対する環境保護の国際的取り組みについて述べる。最後に、船舶起因の環境汚染に対するロシア国内法を示す。

 

(1) 国際法

船舶を発生源とする環境汚染として、国際的に最も古くより認識されていたものの一つは、ビルジ水の廃棄等に起因する油による海洋汚染である。このため、1954年、海洋油濁防止条約(International Convention for the Prevention of Pollution of the Sea by Oil)が採択された。

本条約は、1958年に正式に発足した国際海事機関(International Maritime Organization : IMO)により、その後数回の改正が加えられたが、1973年、油以外の有害物質・船舶からの排水等へも対象を拡大したMARPOL条約へと発展した。MARPOL条約はその後、1978年の議定書をはじめとして、数多くの改正を施されながら現在に至り、船舶からの環境汚染に関わる中心的な国際条約となっている。IMOではこの他、海洋環境の保護を目的として廃棄物等の海洋投棄を規制することを主たる内容としたロンドン条約(1972年採択)等の条約並びに既存の条約に対する議定書・改正等を採択してきている。また、最近では、油汚染に対する対策・国際協力等に関するOPRC条約が採択されている。

船舶あるいは海洋に関わる他の国際法においても、直接・間接的に環境保護に関わるものがある。近年発効した国連海洋法条約は、海洋における諸問題を包括的に規律した「海の憲法」とも言うべき条約であるが、全17部の中の1部を海洋環境の保護及び保全に関する規定に割いている。一方、船舶の安全に関わる条約等も、事故による有害物質の流出を未然に防ぐという意味において環境保護に関わる国際法規と言えよう。船舶の安全に関わる最も代表的な条約はSOLAS条約である。SOLAS条約の歴史は古く、その第1次条約は1914年にまで遡る。その後2回にわたって新条約が結ばれ、IMO発足後は、1960年及び1974年にそれぞれ新たに条約が採択され、また、1978年及び1988年に1974年の条約に対する議定書が採択された。

これらの条約の主要なものの概要を以下に示す。

 

●MARPOL条約

正式名称は、「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(The International Convention for the Prevention of Pollution from Ships,1973,as modified by the Protocol of 1978 relating thereto)。船舶による汚染防止を目的として1973年に原条約が採択され、その後、規則の早期かつ広範な実施などを図るため1978年に議定書が採択された。このため、一般にはMARPOL 73/78条約と呼ばれる。

 

 

 

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