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アジマス型推進器の最大の特徴は、推進器を任意の方向に向けて使用できることから大きな旋回力を得ることができることであり、従来の舵方式に比べて氷中での操縦性能の飛躍的な向上が期待できる。また、任意の方向に推力を発生させることのできるアジマス型推進器の特性を最大限に生かして、氷中と開水中では船の進行方向を逆転させる、DAS(Double Acting Azipod Ship)の発想も生まれている。DASについては4.1.3項において述べる。

 

氷海用塗料

氷海船舶の外板、特に氷との接触が頻繁となる船首部あるいはアイスベルトを中心とする部分には、氷海域用の特殊な塗料が塗られることが多い。氷海用塗料の目的の一つは、船体外板の保護である。氷海域においては、船舶の外板は絶えず氷との接触に曝されるとともに、水中酸素濃度が高いため、磨耗・腐食という観点からは極めて過酷な環境にある。このため、氷海用塗料には堅固かつ剥離しにくい塗膜を形成する特性が求められる。氷海用塗料のもう一つの目的は、氷と船体との間の摩擦の低減である。砕氷航行中の船舶に加わる抵抗は、各種の力学的メカニズムにより発生するが、水と船体との間の摩擦もその重要な一因である。氷による摩擦力は船体外板の表面状態により大きく影響を受けるため、氷海用塗料として氷との摩擦係数の小さな塗膜を形成するものが開発・利用されている。なお、フィンランド及びロシアの砕氷船において、アイスベルトにステンレスクラッド鋼を用いることにより耐磨耗性・腐食性の強化並びに氷との間の摩擦係数の低減を図る試みが行われた。この場合、アイスベルトの無塗装化を実現できるが、アイスベルト周辺の通常鋼材部分はアイスベルト部との電位差により逆に腐食しやすくなる問題があるため、防食対策がとられている。

 

(2) 氷海船舶に関わる規則・分類

船舶は、一般に、形式・機能等の異なるいくつかの種類に分類される。これら各種船舶の安全性を担保するために、それぞれの使用目的・環境等に応じた規則・規準等が船級協会等により定められている。氷海船舶に関しても、ロシアのRR(Russian Register of Shipping)をはじめとして、LR(Lloyd's Register of Shipping)、AB(American Bureau of Shipping)、NV(Det Norske Veritas)、NK(日本海事協会)等の船級協会が、その構造・機関等に関する規則を定めている。また、バルト海、カナダ北方の北極海及びNSRについては、それぞれ、関係政府機関による氷海航行規則並びに航行船舶に対する建造規則が与えられている。バルト海ではフィンランド及びスウェーデンによりFSICR(Finish-Swedish Ice Class Rules)が、カナダではカナダ北極域船舶汚染防止規則(Canadian Arctic Shipping Pollution Prevention Regulations:CASPPR)の中で氷海船舶の建造規則が定められている。また、ロシアでは、NSRに関する航行規則として"The Regulations for Navigation on the Seaways of theNorthern Sea Route"を定めている。ロシアにおける氷海船舶の設計、装備要件等の詳細については4.3.3項を参照されたい。

これらの船級規則では、対象船舶が遭遇する氷況の程度、航行海域等に応じて、氷海船舶を耐氷船(ice-strengthened shipあるいはice-worthy ship)と砕氷船(icebreaker)に分けて取り扱い、それぞれに対して、耐氷規則と砕氷規則を与えている(表4.1-1)。各規則においては、耐氷船及び砕氷船は、さらにいくつかのアイスクラスに分けられる。

 

 

 

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