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あいさつ

 

「北極海」という言葉から何を連想されるでしょうか。氷に覆われた海、その上をさまよう白熊、夜空を彩る神秘的なオーロラ。いずれにしても、人間活動が感じられない、美しくも厳しい大自然ではないでしょうか。

この北極海を真上から見下ろすと、北極海はアメリカ大陸、ユーラシア大陸およびグリーンランドに囲まれた閉鎖的な海域であり、この北極海を挟んでロシアとアメリカが向かい合っていることが分かります。このため、冷戦の時代には北極海は戦略上極めて重要な位置を占め、特にロシア側の海域は外国に対して完全に閉ざされた海域でありました。

この北極海が国際的に開放されたのは、1987年にゴルバチョフ書記長が北極海の国際化宣言をして以降のことです。今や北極海はアジアとヨーロッパを隔てる障壁ではなく、アジアとヨーロッパを結ぶ最短のシーレーンといえます。

今から8年程前に当時の駐日ノルウェー大使がお見えになり、「北極海航路の通年航行の可能性についてロシアと共同で研究を実施したいが、日本も是非参加して頂きたい」旨の要請がありました。ノルウェー大使のお話を伺って、「ロシアが長年にわたって蓄積してきた貴重な北極海の自然や社会環境に関するデータに触れ、更なる調査研究へと発展させるための基礎と人脈を構築し、日露の文化交流を深める上で、正しく時機を得たプロジェクトである」と考え、全面的に協力することにしました。

これを受けて、ノルウェーのフリチョフ・ナンセン研究所、ロシアの中央船舶海洋設計研究所および日本のシップ・アンド・オーシャン財団との国際共同プロジェクトとして、1993年から6年間にわたり国際北極海航路計画が実施されました。

幸いにして、14カ国、390人にのぼる世界の第一線の研究者の協力により、北極海航路に関わる自然、社会、経済、法制などのほとんど全ての分野を網羅した研究成果が167編の報告書にとりまとめられ、20世紀最後を飾る総括的な研究成果として高く評価されています。このプロジェクトでは、北極圏についての暦年資料や統計だけでなく、最新の情報を随時取り入れられる、世界で唯一の北極海に関する地理情報システムが構築されましたが、これは今後の学術的研究ばかりでなく、社会的・経済的な問題での判断指針を得る際の情報バンクとしての活用が期待されます。また、本プロジェクトを通じてロシアとの幅広い信頼関係を築くことができたことも、政府間外交を支援する民間外交の実を挙げ得たものと考えています。

 

 

 

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