日本財団 図書館


江尻彰良(えじりあきよし)(昭和5.6.1生・愛知県瀬戸市)

 

愛知県瀬戸市において、36年間にわたり家庭や家族に恵まれない知的障害者10名とともに共同生活を続け、障害者の社会参加と自立を実現する先駆的な地域生活援助活動を実践されている。

 

昭和38年当時は精神薄弱者福祉法がようやく制定され、愛知県内でも知的障害者の入所施設が一つ出来たばかりであった。知的障害者は全員施設入所待機者と思われていた時代でもあった。

氏は学校教材用粘土の製造販売をする職業柄、知的障害者施設等にも出入りし、家庭や家族に恵まれない入所者の姿も見た。名古屋市内の精神薄弱児の収容施設を訪れ、中学卒業年齢の子どもたちには、行き場がないことを知った。

 

同38年3月、彼らを地域の中で生活させ、自立させたいと、当時としては先駆的な知的障害者との共同生活に取り組んだ。

きっかけは“そこに彼らがいたから”。屋号は「はちのす寮」。

『私は小さな下宿屋を営んでいます。たまたま下宿人10名全員が知的障害者。』と、氏はこの試みを語る。

発足して6年目に、街から10kmほど離れた自然環境に恵まれた場所に移った。障害のある子どもやその親たちにとって、気兼ねなく遊ぶ場がなかった頃には、寮の周りをキャンプ場に開放して喜ばれたこともある。

下宿している障害者たちは、瀬戸物の町であることから陶器製造工場などで働き、地域社会とふれあい、生活している。

 

平成元年に知的障害者の地域生活援助事業、グループホーム制度が創設され、地域生活が可能になっている。

厚生省の「グループホームの設置・運営ハンドブック〜精神薄弱者の地域援助〜」には、『施設でも家庭でもなく、精神薄弱者の小規模な生活共同体として最も古いものは、昭和38年に愛知県瀬戸市に出来た「はちのす寮」だといわれる』と、グループホームの先駆けとなった試みを紹介している。

しかし制度が出来た今も、氏は妻と二人で何の助成も求めず、一市民としてのさりげない暮らしを続け、はちのす寮は町の中に溶け込んだ共生の場になっている。

現在、下宿している知的障害者の平均年齢は53〜4歳になっている。共に老いていく暮らしである。

(石井鉄一推薦)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION