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1 沿岸海域

 

第三次海洋法会議の成り行きを研究する者は、国連海洋法条約で新たに規定されたものに、しばしば焦点を当てがちである。しかし、現状を踏まえて適切に改正された旧来の規則、例えばグロチウスの理論と言うものも同様に重要であるが、それらは時として見過ごされる。沿岸国が海洋を使用する権利を拡張しようとする動きが過小に評価される一つの理由は、そのような動きは沿岸国の覇権主義、及び覇権主義を唱える沿岸国の同盟国により主張されることも理論上はあり得るが、今日では、先進国と発展途上国を問わず、覇権主義が時代に即していると言う主張は殆ど存在しないことによる。もう一つの理由は、自国船舶の通航、自国航空機の飛行、及び海底ケーブルの敷設のために沿岸海域を使用することを目的とした旗国主義が容易に達成されたからである。この旗国主義の達成というものは、1974年の第三次海洋法会議の最初のセッションで認められた12マイル領海制度、国際海峡での通過通行権、及びEEZと同一のパッケージであった。

 

そのパッケージでは12マイルの領海が国際的な論点にはならなかったが、そもそも領海制度は18世紀において既に認められており、殊更に第三次海洋法会議の成果であるというわけではない。領海では、外国の制限的な利用、つまり無害通航権の行使を除き、海上、海底、及びその上空は沿岸国の主権が及ぶ。しかし、沿岸国の管轄権の及ぶ範囲については常に国際的な論点となっている。このため、他国の領海を通航する者は沿岸国の「伝統的な」領海の幅の主張に反対すると共に、沿岸国の領海拡張の主張に対しても同様に異議を唱えてきた。

 

幾つかの沿岸国は、科学技術の発展した20世紀においては、グロチウスの理論はもはや実効性がないと主張した。その結果、そのような国は、自国の主権の及ぶ範囲を3マイルから200マイルに拡張することを主張した。しかしそのような主権拡張論も、一枚岩というわけではなかった。

 

 

 

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