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あとがき

 

学問の展開には、いくつかの性質の異なった動機が存在する。歴史が語る2大転機は、生産・経済形態の変化(例:産業革命、電子産業革命等)と、不幸な事ではあるが世界大戦規模の戦争時(例:宇宙開発、原子力利用等)である。

平和時にどのような進展が見られたか、とりわけそのきっかけや評価の抽出は簡単ではない。しかし、原理的な面での発展は、むしろ社会的背景よりも人物依存であることはよく知られている(例:ニュートン、キューリー夫妻、アインシュタイン他)。一方、科学技術(医療を含む)の進歩は、キーとなる科学の発達を受け、社会事情と大きく関わりながらやや時間をかけて起こる(例:ロケットの発明とジェット機の普及、ペニシリンの発見と抗生物質の普及等)ことは自明である。

具体的な科学上の発見・発明と科学技術の発展だけで、科学世界全体が成り立っているわけではない。もう一つの粒として科学の方法論を支えるパラダイムの変革・進化があることを忘れてはならない。これと密接に伴って数理科学の展開が見られることが注目される(例:ジャボチンスキーの輪と定常状態・非平衡系、ファジー理論とカクストロフィ現象他)。

このような学問の諸局面の進展に伴って、科学の総体は対象・手法・応用の範囲を指数函数的に拡大してきた事実があり、研究分野の数は急激に増大してきた。要素還元的な発想に立つ分野の細分化と深化が先行し、スタティックな科学は完成に近付いた頃から、動的科学の展開が始まり、統合とか統合の発想での部分と全体の関係を見直す仕事が多くなってきて、システム科学の重要性と曖昧性の意義とが注目され、遂に複雑系の研究にも陽が当たるようになってきた、という流れが認められる。

分化・深化で広がり、さらに総合・関係の追究の中で拡大してきた科学の分野は、いずれにせよ結果としてその数を増してきたという事実がある。このような“無数の”科学研究分野が、実際には幾つくらいありいかなる分布をとっているかを知る分野地図の作成は非常に遅れていることも事実である。原理の究明に忙しい現代の科学世界では、こうした“単純作業”的学問分野整理学には冷淡とならざるを得ないのかも知れない。

上記のような科学研究発展環境の変遷をふまえ、日本科学協会では、地道な科学分野整理学が今こそ求められる時期であり、複雑系解明の基盤科学として貢献できる意義をもっと判断し、複雑系の典型としての海洋を研究対象に持つ海洋科学事例に選び、その分野整理手法として立体目次作成というコンピュータ活用での調査・研究に取り組むことにした。

このような研究には、多くの専門家の協力が不可欠であるが、協会の構成員がそのような仕事に最も相応しい環境を創造できると判断したからである。具体的には、その初動体制として本研究プロジェクトを立ちあげ、当該報告書の第2章を執筆された若干名から成る異分野研究者集団による基礎研究と、その具体的分野抽出・目次制作のための作業グルーブとの連携プレーを展開することとした。

本研究・調査・作業を担当して下さった各位に厚い感謝と敬意を表すると共に、プロジェクト推進に深い御理解をいただき、心から御礼申しあげます。

 

2000年3月

財団法人 日本科学協会

理事長 濱田 隆士

 

 

 

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