日本財団 図書館


5. 亜寒帯城海洋データの品質管理

大量のデータがJODCに集積された後では、疑問のあるデータが見つかっても、観測原簿と照らし合わせて修正して行くことは実際上不可能であり、そのようなデータにはフラグ(印)を付けて、ユーザーの注意を喚起するのがせいぜいである。MIRCでは、JODC流入してくるデータそのものの品質向上を目指し、現場で活用できる品質管理ソフトの開発を行ってきた。このようなソフトで行う品質チェックとしては、船速チェック、海陸チェック、水温・塩分あるいはその鉛直勾配のレンジチェック、密度逆転チェック、重複データチェック等がある。観測位置・時間等のヘッダー情報については、船速チェックが有効である。MIRC開発の品質管理プログラムを和歌山県農林水産総合技術センターの資料に適用した結果、船速チェックを通してヘッダー部の記載ミスのほとんどを発見し得ることが示されている(永田ら、1999)。

データレコード部の誤データの検出に用いられるのが種々のレンジチェックである。米国のNODCが、World Ocean Atlas 1998を編集する際に用いた水温・塩分の上限・下限の閾値は、赤道域を除く北太平洋全域を対象に設定されている(Ocean Cimate Laboratory,NODC,1998)。海域をより限定した場合、観測値の分布は狭くなるから、亜寒帯域を対象にNODCの閾値をそのまま用いることには問題がある。岩手県水産技術センターが岩手県沖に設定している32の観測定点で、1971〜1995年の25年間に観測した水温値の全てをプロットしたのが図3である。幾つかの深さで棒状にデータが集まっているのは、最近のCTD観測では標準層の深さのみにデータが報告されることによる。また図で、鉛直・水平線からなる折れ線は、NODCが用いている閾値を示す。岩手県水産技術センターの観測対象の三陸沖は、黒潮・親潮前線に挟まれた混合水域にあり、親潮水・黒潮水・津軽暖流水が間欠的に侵入し、著しい層構造が生じている複雑な海域である。水温の観測値は、NODCの与えている閾値の十分内側に分布しているが、中央に集中分布している観測値の塊から離れて、離散的に分布するデータがかなりある。これらは、直ちに誤データとは言えないが、誤りである可能性も高く、観測原簿に戻ってチェックすることが望ましい。

073-1.gif

図3 三陸沖での20年間の水温観測値の分布。NODCの採用している閾値(折線)、平均値(三角)、平均値から標準偏差の三倍離れた値(丸)の鉛直分布も示す。

 

月刊 海洋/Vol.31, No.11, 1999

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION