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図6 底生生態系モデルにより計算された1996年6月1日から1996年7月29日までの水中と底泥との窒素収支の経時変化

 

二つのBOXの平均値で見ると、7月16日まではPON(懸濁態有機窒素)の除去速度は561〜962mgNm-2 day-1(平均785?Nm-2 day-1)の範囲にあり、それに対し、DIN(溶存無機態窒素)の溶出は159〜757?Nm-2 day-1(平均535?Nm-2 day-1)の範囲であった。その結果、TN(総窒素)収支では43〜401mgNm-2 day-1(平均250?Nm-2 day-1)のsink(水中からの栄養物質の除去)であった。しかし、7月16日から7月22日にかけてPONの除去速度、DINの溶出速度が共に急速に低下し、7月29日にはPONの除去速度はほとんど消失した。このことによって、TN収支では7月22日以降sinkから約240?Nm-2 day-1のsource(水中への栄養物質の負荷)に転じた。

これらの計算結果を総括すると、貧酸素化により次のような現象が起こったと推測される。密度躍層上部に位置する浅場は、通常、貧酸素水塊の影響を受け難く二枚貝類を中心とした懸濁物食者や多毛類を中心とした堆積物食者により、海水中の有機懸濁物やそれらの沈降物の除去能力が高い。また、光が底面まで到達し、付着藻類や海草(藻)の生育によって無機態窒素の溶出が抑制されるため総窒素の除去能力も高く、高い水質浄化能力を有している。しかし、沖合底層の貧酸素化が潮汐流や吹送流によって浅場にも影響し始めると、先ず、ろ過食性者による海水からの有機懸濁物の摂取や、水中からの沈降量と釣り合っていた堆積物食者による底泥デトリタスの摂取が低下する。ベントスによる摂食圧の消失は透明度の低下や有機物の底泥表面への堆積を促進し、付着藻類の生育阻害を誘引し、光合成による付着藻類へのNH4-Nの吸収も極めて少なくなる。堆積物内部の循環もバクテリアによる系のみが中心となる。しかし、その系もバクテリア現存量が低下することによって細くなり、底泥の悪化が促進される。バクテリアによる分解速度の低下に伴い堆積物から海水へのフラックスも減少するが、PONとDINとの差し引きでみたTN収支ではsinkからsourceに大きく変化する。結果として、浅場は高い浄化の場から一転、負荷源に転じ、赤潮や貧酸素化に拍車をかける悪循環に陥ってしまう。

底生生物が豊富な水深5m以浅の浅場は三河湾の面積の22%を占めるが、仮にその1/3が貧酸素水塊によって、上述と同じ水準で底泥と水中との物質収支が変化を受けたと仮定すると、その海域では総窒素(TN)ベースで11tonNday-1の溶出となり、三河湾への流入負荷量を41ton day-1とすると、その27%程度に相当することになる。現在の貧酸素水塊の発生状況では、この数値は過大評価とは言えない。

 

 

 

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