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緩和ケア病棟開設に向けて

 

宮崎市郡医師会病院

筒井 麗子

 

今回この研修を受講したのは、緩和ケア病棟開設に向けて準備を進めるための知識を学ぶという大きな目的があった。緩和ケアナースとして看護を実践できるようになるためには、実に多くの知識と熟練した看護技術が必要とされることを4週間の講義から認識した。そして緩和ケア病棟において看護婦の担っている役割の重要性を実感するとともに、緩和ケアとは全ての医療の原点であるという思いを強くした。全体の講義を通して強く感じたことは、緩和ケアについて考えるとき、特に倫理的問題やコミュニケーションの重要性ということである。小島1)は終末期医療で直面する倫理的課題について調査を行い、その結果を以下のように述べている。

「自己決定に関わる倫理的課題として、a.自己決定できないこと、b.自己決定が聞き入れられないこと、c.自己決定が守られないことがあげられた」「知る権利に関わる倫理的課題として、a.病気について知らされないこと、b.治療・処置について知らされないことがあげられた」「ケアに関わる倫理的課題として、a.疼痛・苦痛のコントロール不良、b.コミュニケーション不良、c.プライバシーの侵害があげられた」。これらの課題の原因・理由などの「源」を以下のようにまとめている。

1)医師の医療に対する考え方、2)終末期医療に対する考え方の相違、3)疼痛コントロールなどケアに対する無関心、あるいは知識・技術の不足、4)コミュニケーション不足、5)終末期医療に対するフィロソフィー、ケアリングの欠如、6)倫理原則の無視・無関心。そしてこれらの課題への対応策として、a.終末期医療に対するフィロソフィーを持つ、b.コミュニケーションを密にする、c.チームでサポートする、d.ケアリング能力を高める、e.倫理委員会の設置とガイドラインの作成、をあげている。特にdのケアリングでは、シスター・ローチが述べている。倫理的側面が含まれるという5つのCについて示している。1)Compassion(思いやり)、2)Competence(能力)、3)Confidence(信頼)、4)Conscience(良心)、5)Commitment(コミットメント)。

この5つのCを踏まえて「終末期医療に携わる専門職業人として、ケアリング能力を高めることが、患者を人間として尊重した質の高いケアの提供に」つながると述べている。以上のことは医療現場における現状(問題)とその対応策、つまり緩和ケアを行うために必要とされる全てを言いあらわしていると思った。

良好なコミュニケーションを持つことは緩和ケアの基本である。チームメンバーとの連携、疼痛コントロールや日常生活上の援助、告知、霊的ケア、家族への援助などすべてのケアにはコミュニケーションが影響する。良好なコミュニケーションがなければ患者のQOLの向上にはつながらない。ロールプレイや模擬患者とのトレーニングを通して、コミュニケーションには技術があり、良好なコミュニケーションを持つには、聴くことや、自分の考えを明確に相手に伝えることに訓練が必要だと感じた。相談に応じるときや不安を訴えられたときなど、何かアドバイスしなければ、不安を軽くしてあげなければ、という思いがあり、無意識のうちに相手に対し身構えていたのではないかと思った。そのため、本当は何が言いたいのか、その言葉の裏にはどんな思いがあるのか、何が問題なのかということを見逃してしまう。また途中で話をさえぎったり、訂正したりすると、相手が本当に話したいことが言えなくなってしまう。

「よく聴く」ということは難しい。「積極的傾聴には、理解、技術、忍耐、努力が必要とされる」2)。「積極的に傾聴するには、ことばの意味を聞きとらなければならないので、集中力が必要である。

 

 

 

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