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家族にも全人的な関わりを持ってケアを

 

香川医科大学医学部附属病院

池田 由美子

 

治癒を目的とした治療を受けるために多くの患者さんが大学病院に入院されているが、その中には病気の進行によって治癒が望めなくなり死を迎える人達もいる。その人にとってたった一度の人生の終末、苦しみから解放され、人間らしく尊厳を持って有意義に生きぬくことができるようにする必要性を日々感じ、知識と技術を学びたいと思って今回の研修に参加した。講義及び実習を通して学んだことについて以下にまとめたいと思う。

緩和ケアでは、ケアの対象者である患者を全人的痛み、すなわち身体的痛み、精神的痛み、社会的痛み、そしてそれら全てに深く関わる人間存在としての霊的痛みを感じ、全人的に苦悩する存在であると理解する。ケアにあたって、自分の目の前にいる人がそれらの苦痛をどのように感じているか知ることが必要であり、患者理解を深めるためには、患者さんが私達に出会うまでどのように生きてきたのか(ものの考え方・価値観・生い立ち・生活歴・性格など)を知ることが重要である。今までの私は、目の前の患者さんの姿だけをみて判断する傾向にあり、本当の意味で患者さんを理解できていなかったのだと気づいた。

辛い症状があると、その人らしい生活もQOLの向上も望めないため、積極的な症状緩和が重要である。症状マネジメントについては、患者の症状体験を理解し、患者と一緒に症状の方略を進め、症状の結果として患者にとっての症状緩和の効果を評価するという、看護婦のための症状マネジメントの統合的アプローチについて学ぶことができた。症状は主観的であり、その人が今体験しているものであるから、患者の持つ症状のマネジメントは患者がその主導権を持つものである。医療者は病態学的なメカニズムや有効な方法、無効な方法について情報を与え、選択肢を示すが、選択するのは患者であるということが実習で体験できた。末期がんの患者さんは病状の変化が著しいため、よく観察し常にマネジメントの方法を見直していかなければならない。患者さんの症状やそのマネジメントを的確に理解するには、患者さんの訴えを過小評価せずにそのまま信じること、自分達がケアする患者さんにみられる症状の機序と現れ方、薬剤(特に麻薬)や症状緩和に有効な看護ケアについての知識を持つことが大切であると思った。また、患者さんが何を希望し、どのようなマネジメントを望んでいるかチームで話し合い、同じ目標に向かって協力し合い活動することの必要性を再認識することができた。

精神的・心理的援助について、患者は今後の見通しが立たず不安が募り、もって行き場のないいらだち、死に対する恐怖で叫びたくなるような衝動を抱いたり、誰にも気持ちを伝えられず悶々として毎日を過ごしていたりと、様々な精神症状を呈する。また、患者の気持ちは刻々と変化し、常に同じ状態ではない。このため、患者の病気に対する感情を表現できるように援助し、患者の感情に気づき共感することがケアの第一歩であるといわれている。私は患者さんから「どうしてこうなったのだろう」「もう少し生きられると思うか」などと問いかけられたとき、どう対応して良いかわからず、話題を変えたり安易な励ましの言葉をかけていた。コミュニケーションの講義で、この行為は患者さんの出しているサインに気づかず、患者さんの気持ちを閉ざしてしまうということを知った。患者さんとの対話は言葉をただ聞くのではなく、相手の言葉の裏に隠された気持ちを感じとり、そのことを言葉と態度で相手に示すことが必要で、患者さんが訴えたいことを踏み込んで聴くことが大切である。ロールプレイをすることで自分のコミュニケーションの問題点を再認識することができた。

スピリチュアルペインにおけるケアにおいても傾聴し共感する姿勢が大切で、患者さんからどんな言葉や感情が返ってきても、しっかりと受け止めようとすることが重要である。人生の苦難への問いについて、患者さんは必ずしも私達に答えを求めているとは限らず、自分自身へ問いかけていることもある。その人のそばを離れず、ともに悩み歩んでいくことが、患者さんにとって慰めや励ましになると学んだ。患者さんの気持ちに寄り添って援助できるよう、コミュニケーションスキルを磨きギャップを埋めていかなければならないと思う。

がん患者さんにとって、ご家族は心理的・社会的に最も身近な存在である。患者さんのご家族は、患者さんががんと診断されてから患者さんと同様の苦痛を抱いて生活しているため、家族にも全人的な関わりを持ってケアすることが大切である。家族をケアする場合は、システムとしての家族(構造とプロセス)と家族のライフスタイルの両面から、どのような家族関係であるかをアセスメントし、家族一人ひとりに関心を持ってどのような気持ちでいるかを聴き、家族全体を見てどこに問題が生じているかを考える必要がある。また、家族の考えが看護者の思いと異なる場合であっても、その考えを否定せず、ありのままを受け入れ、患者家族にとって最善の方法をともに悩み考えていく姿勢が求められるということを学んだ。

 

 

 

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