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全人的ケア

 

近藤内科病院

谷田 典子

 

はじめに

 

私の勤務する病院に緩和ケア病棟が開設されることになったのが、今回この研修に参加した動機である。その目的は、終末期患者とその家族に対して質の高いケアが提供できるように緩和ケアの基礎を学び、実践できる能力を身につけることであった。今回の研修で学んだことを以下に述べる。

 

緩和ケアとは

 

WHOでは「緩和ケアとは、治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである。痛みやその他の症状コントロール、精神的、社会的、そして霊的問題の解決が最も重要な課題となる。緩和ケアの目標は、患者とその家族にとってできる限り可能な最高のQOLを実現することにある。末期だけでなく、もっと早い病気の患者に対しても治療と同じに適応すべきである」とある。

今回、この研修を通して上記の意味がよく理解できた。恒藤暁先生が、緩和医療を実践する医療従事者の姿勢には誠実、感性、忍耐、謙遜、真実の愛が望まれると言われていたが、私自身一人の人として成長したいと思った。そして患者とその家族を尊重し、それぞれの価値観を大切にしたケアを提供したい。そのためには看護婦の推測ではなく、患者さん、ご家族に聴くことが大切であると痛感した。

 

全人的苦痛の理解と援助

 

患者の苦痛は単に身体的な側面だけではなく、精神的、社会的、霊的な側面があり、これらが相互に関連しあって全人的な苦痛となっている。そのことを理解し、総合的にアプローチ、ケアしていくことが必要である。

 

1) 身体的苦痛

末期がん患者は身体的苦痛として疼痛、倦怠感、呼吸困難、食欲不振などさまざまな症状が出現する。身体症状はそれが消失あるいは軽減しない場合は、単に身体的苦痛だけでなく他の全人的苦痛にも大きな影響を与える。したがって身体的苦痛を緩和することは不可欠である。身体的苦痛のコントロールについては、患者がその症状をどのように体験しているか訴えを十分聴くとともに観察し、常にアセスメントしていく必要がある。患者のそばにいることが最も多い看護婦には、症状コントロールにおける役割が非常に大きいと言える。

 

2) 精神的苦痛

身体的苦痛と共に不安、いらだち、孤独感、怒りなどの精神的な苦痛を患者は伴う。それはがんと診断された時、あるいはがんが疑われた時から最期の時までいろいろな形で続いていく。その援助としては十分に時間をとって患者の言葉に傾聴することであり、この時患者の感情に焦点をあてながら理解的態度をとることが大切である。またFinkの危機モデルやAguileaとMessickの危機モデルを用いて、今、患者がどのような状態にあるかや、どのような援助が必要かを理論的にみていくことも必要である。

 

 

 

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