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今やれることから始めよう

 

京都府立医大病院

藤本 早和子

 

はじめに

 

今回、私は1か月半という研修を通して、いろいろなことを学んだ。

私の今回の研修で学びたかったこと、考えてみたかったことは大きく分けて3点ある。『緩和ケアにおける看護婦の具体的な役割、緩和ケアで働く看護婦としての看護観、そして実習を通して、一般病棟においてどんな緩和ケアを提供できうるか、そのためには看護婦としてなにをなすべきであるか』ということであった。これらのことを一つずつ、述べていきたい。

 

緩和ケアにおける看護婦の具体的な役割

 

1) 全人的痛みへの看護

緩和ケアでは患者の痛みを全人的痛み(total pain)すなわち、身体的、社会的、精神的、そして霊的痛みをtotalとしてとらえていくことが非常に大切となってくる。症状マネジメントにおいては、患者に一番近い看護婦がいち早く症状を感知し援助すると同時に、できうる限りの患者の症状コントロールがスムースに運ぶように患者、家族、その他のチームのメンバーに働きかけていく必要がある。

セルフケアの援助においては、患者の日常生活習慣をできる限り尊重し、その不足している部分を補う援助をしていく。あくまでも患者が希望するセルフケアに近づけるように、必要ならばリハビリを取り入れたりしながら、QOL向上に重きを置く。精神的な援助としては、患者の心ははかりしれない不安や悲しみがあり、それらの感情を表現できるように援助しその感情に共感していくことが大切である。

社会的な側面としては、患者は家族についての悩みや仕事についての悩み、経済的な悩みなど様々な問題をかかえており、それらについて看護婦の援助だけでなく、MSWなどの援助も受けられるようにしていく必要がある。また、それには看護婦も社会的資源の知識も持っておく必要がある。

霊的なケアでは、まず、この援助をするにおいては看護婦が自分なりの死生観を持っていることが前提であるように思う。研修の中で死を考えるということは、生きるとはどういうことかを考えるのと同じであると学んだ。看護婦は日頃から生、死を考えていることで初めて患者のスピリチュアルな部分が理解できうるのではないかと思う。具体的には、患者がスピリチュアルな痛みに気づけるように援助することと、それを共に考えていくことであろう。また、宗教家のアプローチも必要ならば援助できうるように配慮していく。

 

2) 家族のケア

緩和ケアにおいては、家族のケアは患者のケアと同じくらい大切である。看護婦は家族に面接など行う中で、心理的ストレスの援助、死別の準備への援助、時に家族間のコーディネートもしていく。また、死別後のケア(グリーフワーク)も重要である。残された家族が日常の生活に適応していけるよう、手紙などを出して様子をうかがう、また十分に悲しみを吐き出せる場を持てるように、できれば家族会などの運営も担っていく必要がある。

簡単に緩和ケアにおける看護婦の役割について書いたが、いろいろな講義を聞いていて感じたことは、緩和ケアでは実に様々な職種のメンバーが患者を取り巻いているということである(メンバーには患者さん、家族も含まれる)。それらを上手くコーディネートすることも看護婦の大きな役割であると思う。上記の看護婦の役割においても、看護婦のみでは遂行しえない。どんな時でも患者の立場に立って患者の希望にそえるよう、看護婦が中心となって様々な形でメンバーをコーディネートしていくことが、最も大切であると感じた。

 

 

 

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