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一部の患者の医療からすべての患者へ

 

市立備前病院

大取 美穂子

 

私が緩和ケアナース養成研修に参加した理由はまず、以前よりホスピスに興味を持っていて、緩和ケア施設での就職を考えたこともあったということが、ひとつにはあります。

2つめは、今まで接してきたがんの患者、家族は本当に納得した死が迎えられているのだろうか?という疑問がいつもあり、それが漠然とした個人の考えではなく、きちんとした理論や実際を学びたかったことです。

そして3つめに、今回の実習での一番の目的である、緩和ケアの施設の中だけでなく、一般の病棟でも緩和ケアの知識を得れば、がんの患者に少しでも今よりできることがあるのでは、と考えたからです。今までは忙しさを理由にできないと決めつけていたように思います。

したがってこの実習での私の目標は、講義で学んだ知識の実際との比較、実際の援助方法の習得、また緩和ケア施設の運営方法を知り、それをもとに一般病棟でできることを考えていきたいというものでした。

 

私は、かとう内科並木通り病院で2週間の実習をさせていただきました。かとう内科並木通り病院は平成9年に認可を受け、緩和ケア病棟を開設しました。この病院はそれまで診療所としての歴史が長く、患者、家族、その方々を取り巻く地域社会のなかで地域のホームドクターとして在宅ケアに力を入れてきました。そして、その一環として緩和ケア病棟が生まれたのも必然的なものであるということでした。

かとう内科並木通り病院の基本は家庭医療というものが根底にあります。家庭医療の第一の特徴は、患者を全人的に理解しようとする考えに基づく医療であり、その目的は、身近なところでの健康問題の解決や、病気の予防と健康の増進というところにあると言えます。

第二の特徴は、医療の総合性と継続性です。総合性とは家族全体をひとつのユニットとして見ていく立場であり、たとえば親の健康問題に取り組む時、それが子供の心身の状況に影響を与えることを想像し、それを予防する手立てをアドバイスすることであったり、子供の健康障害が家庭内の生活状況の変化によるものではないかということを、いつも観察する目であるということです。また継続性とは、患者や家族をその生活史の中で、幼少時より成長し、老いていく全過程を通して見守ることを意味します。この経過の中で、その家族の様々なできごとに関わりながら、遺された人々が立ち直る経過を、自然なかかわりの中で見守り、時には援助することです。

そして、第三の特徴は、患者と家族が住み慣れた地域社会で、より良い状態で可能な限り生活することができることを目標とするため、チーム医療を基礎としていることです。その中心は常に患者にあります。すなわち家庭医療とは人間への臨床的で社会的な総合的アプローチです。

一方、緩和医療も患者の苦悩を単に肉体的なものととらえるのではなく全人的にとらえ、痛みや様々な苦悩から患者と家族を解放し、より良く生きることを援助することを目的とします。そしてその範囲は家庭医療と同様、全身におよび、要求される知識と技術と態度は、痛みの緩和技術からコミュニケーション技法までと多岐にわたっています。またチーム医療としての手法も、患者中心の考え方も苦痛や悲嘆の予防という側面も共通であり、緩和ケアとは緩和医療を基礎とした総合的ケアであるということになります。

 

 

 

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