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緩和ケア病棟から学んだこと

 

和歌山労災病院

森 久美子

 

この研修への参加は、緩和ケアに興味を持った私の希望と、来年度に新しく院内教育として緩和ケアコースを持ちたいという看護部の意向とが一致し、そのプログラムを作成する任務も持つということで実現した。学生の臨床実習を受ける立場でありながら自らが実習することになり、学生とは違った期待感を持ち新鮮な気持ちで臨むことができた。緩和ケア病棟は全く経験がなく、その構造や運営、看護形態、看護婦の行動など講義で学んだことがどのように実践されているかを知ることを目的に実習に臨んだ。

まず、緩和ケア病棟のエレベーターを降りた時、これがナースステーション?という感じであった。木目調で統一され、他の病棟に見られる病院という雰囲気がなかった。病棟全体に慌ただしさがなく静かに時が流れていき、緩和ケア病棟はこういう雰囲気なのかと思った。患者さんが落ち着いた療養を必要とすることから、静かで明るく暖かい雰囲気をつくり、家族、付き添いの環境を整える工夫をしているという婦長の言葉通りであった。各病室も落ち着ける雰囲気であった。調度品の配慮がされ、酸素の配管が扉で隠せること、音がもれないようにドアに厚みがあること、床のフローリングがソフトで音を吸収していること、トイレが入りやすいこと、照明がマイルド、オーバーテーブルが丸く柔らかい雰囲気なことなど細かい配慮がされていた。デイルームは広々して、熱帯魚や観葉植物があったり、ゆったりくつろげる間取りであり、外来の待合室も兼ねていることからその機能性は十分であった。檜の風呂は、入浴を嫌がっていた患者が毎日入るようになったことなどから、その心地よさが伺えた。エレベーターバスも、介助した患者さんは全員とても喜んでおられた。日本人の風呂好きを重視した設計だと思った。構造的には病棟ではなく生活をする場という感じであり、設計段階で看護部の意見がとり入れられていると感じた。患者側と看護側から両方の機能を考える必要性がよくわかった。

病棟運営は、病棟に外来も併設していることから22床に看護婦22名のスタッフという恵まれた条件であった。緩和ケア外来は、他の外来より時間やシステム的に余裕が必要と考えられるが、この外来併設はよいと思った。外来は予約制のため、ゆっくりと関われていた。しかし、初診時はMSWから入るため、私が関わった人は3時間ほど要しており、少し時間がかかりすぎかと思われた。インターネットもうまく運用しており、今の時代は情報交換や提供も必要と感じた。看護体制は、プライマリーとアソシエイトナースがあり、固定チームナーシングで3交替制をとっていた。所属病院と同じシステムであったが、担当が1〜2名と恵まれており、緩和ケアではこのくらいの余裕が必要と思われた。回診は毎日頻回に行われ、患者が医師を待っているのがよくわかった。カンファレンスも入退院者を中心に必ず実施され、行った看護の評価をされていたことは重要なことだと思った。週1回のお茶会は患者や家族とのコミュニケーションをはかるのに役立っていた。お誕生会も退院された患者の外来受診時にも行っており、退院しても忘れられないという安心感を与えていた。年間行事も盛んに行われており、季節を感じてもらうのに役立っている。実習中、ジャズコンサートが開催され、一般病棟では考えられないお酒も用意されるなど、緩和ケア病棟ならではの企画であった。患者は飲食ができなくても楽しんでおられたし、家族もそれをとても喜ばれていた。その表情を見て家族ケアに役立っていると思った。

 

 

 

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