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患者・家族を中心とした緩和医療の提供へ

 

愛知県がんセンター病院

坂井 良子

 

はじめに

 

実習目的「研修での学びを統合し、実習施設での看護の実際を通して、緩和ケアに対する知識・技術を深めることができる」に沿って、2週間にわたってのホスピス病棟での実習から、多くの学びを得た。その中から、看護の視点を通して学んだことと今後の課題について述べる。

 

学んだこと

 

1) 緩和医療におけるチーム・アプローチの重要性

他職種との連携により、患者および家族のQOLの向上に寄与できることを目の当たりにすることができた。医師、看護婦の他にソーシャル・ワーカー、チャプレン、薬剤師、栄養士、ボランティア・コーディネーター、音楽療法士がそれぞれの立場で患者さんにアプローチができていた。全人的苦痛に対して、医師や看護婦は主に身体面と精神面の苦痛には対応するが、社会的資源の活用にはソーシャル・ワーカーの存在が不可欠である。入院相談の段階から関与しているので患者さん、家族の信頼も厚いと感じた。また、チャプレンは、霊的な痛みに対して、自身の信仰を拠り所としての魂の救済をされていた。決して宗教を押し付けるのではなく、自然な形で死が近い方に安らぎを与えている。また、ボランティアの前で患者さんは、医師や看護婦とは違う顔を見せたりするし、音楽療法の場では患者さんの中に眠っていたような感情や思い出が表出される時もある。看護婦は、これらの職種との連携をとることで、患者理解を深めることができる。連携の取り方としては、ボランティアとは連絡ノートを活用しており、音楽療法士は、カルテに専用のページが設けられていて、そこに事細かに情報の記載がなされていた。

また、朝の申し送りと昼のミーティングに看護婦以外の他の職種が参加している様子を見て、チーム医療の原点を見た思いがした。看護婦が観察したことや実施した内容についての情報を共有することで、それぞれの立場でのアプローチの仕方が見えてくると感じた。朝の申し送りでは、患者さんからの医師に対しての要望などが伝えられ、それに対してその場で対応する医師の姿があり、また、今後の医療方針を語る場があってよかった。その他にも、ソーシャル・ワーカーやチャプレンなどからも発言があり、患者さんと家族にとって望ましいアプローチについて意見が述べられていた。ただ、時間を十分とるまでにはいかないため、その点で残念な部分もあるが、システムとして確立していることは大いに参考になった。

 

2) 時間の流れについて

ホスピス病棟といえども、患者さんの症状や病態によって、注射や処置が一般病棟のように行われている現状があった。モルヒネの大量投与によって、準備のために多くの時間を必要としたり、骨折した患者のシーネ固定の包帯の巻き直し、乳がん患者の患部のガーゼ交換等。その分、ベッドサイドでの傾聴の時間が短くなるという。しかし、実習を通して、時間の流れがゆるやかに感じられた。それは、おそらく一緒にいた看護婦の患者さんに接する様子を見ていたからだと思う。穏やかな物腰や静かな口調、そして微笑みと、患者さんにとっては何にも勝るものではないだろうか。廊下もカーペット様のクッション性のあるものが敷かれていて、移動による騒音も最小限であった。また、病室の窓からは、移り行く季節の木々の様子がよくわかり、自然とゆったりした気持ちになった。

 

 

 

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