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私が目指す緩和ケア

 

埼玉県立がんセンター

松永 晴子

 

はじめに

 

私の病棟は平成10年10月にオープンし、8か月を迎えたところです。私も含めて、緩和ケアについての知識を持っているスタッフはほとんどいませんでした。そんな状態で始まり、試行錯誤しながら働いてきました。平成11年3月から淀川キリスト教病院で研修を終えた医師を専任医として迎え、本格的に緩和ケア病棟が動き始めたのですが、いつも「これで良いのだろうか」という不安を持ちながら看護してきました。病棟を開棟する前に、緩和ケアの専門的な勉強をする暇もなく病棟は動き始めたので、私自身、何をすれば良いのかはっきりとは分からない状態でした。実際に緩和ケア病棟で働きながら経験し、学習会で学び、ある程度の知識を得ることができましたが、まだまだ不足していることを日が経つほどに感じるようになり、緩和ケアについての知識を深めたくてこの研修に参加しました。私にとってこの6週間は、自分と自分の病棟を振り返るよい機会になったとともに、講義では新しい学びが多くありました。印象に残っている講義と、実習で体験したことを交えながら、私が目指す緩和ケアについて考えてみたいと思います。

 

講義で学んだことを振り返る

 

講義の中で強く印象に残っているのは、コミュニケーション・スキルとチームアプローチ、家族援助概論と実際、症状マネジメント、ターミナル期のリハビリテーションです。その他の講義も興味深く、私にとって新しい発見がたくさんありましたが、その中でもこれらは今までの考え方ではダメなんだと教えられました。それぞれについて振り返りながら、これらについての自分の考えや感じたことを述べたいと思います。

 

1) コミュニケーション・スキルについて

コミュニケーション・スキルでは「なぜコミュニケーションが必要なのか?」「なぜ看護婦はコミュニケーションが大切だと思うのか?」という質問から始まりました。改めて考えて見た時、即答できない私がいました。看護婦になる勉強を始めてから繰り返し学んできたこのコミュニケーションですが、自分自身の中ではきちんと消化できていないことが分かりました。コミュニケーションとは、「他の人とお互いの感情や考え、態度や行動を伝達しあい、相互に理解することである」と定義されています。今の現場の中での看護婦と患者の関係は、この定義されたような関係なんだろうか?と問われた時、私は少なからず相互理解できていると感じていました。

しかし、講義の内容を聞いていくと、十分にコミュニケーションがとれていなかったことに気付かされました。それは、コミュニケーションには意図的に行っていく治療的な役割も持っており、その一つに、癒しの関係としての看護婦─患者関係があることを教えていただきました。この関係は、『目的を持った、意図的な相互作用であり、援助関係は、患者が自己の健康を認識し、自己の力によって問題に対処し、それらの経験を通じて成長発達を促進することを目指す関係である。また、看護婦と患者の援助関係は、患者が安心感、安全感を持つことのできる治療的環境となり、患者はその関係の中で癒されたり、自己を癒す力を高めることができる。患者は看護婦との関係の中で承認、希望、愛、期待、喜びなどを体験することによって、苦痛や苦悩を軽減でき、自己コントロール感を高め、セルフケアを促進できる』。

 

 

 

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