こうして、従来慣習国際法に頼っていた海洋国際法が、網羅的に法典化され、世界的規模で共通化されたわけであるが、軍艦についてもその定義、権限の一部については成文化されて、記載されたので明確になってきた。
しかし、それでもなお、全く法典化されていない慣習国際法が残っており、それらに留意しておくことも依然必要である。例えば、内水における軍艦の制度、歴史的水域の用件等は条約化されていないが、慣習国際法として全ての国に対して効力がある。
さて、明治維新を機に急速に近代の国際社会に躍り出た日本は、1870年(明治3年)の普仏戦争に際し、交戦国の戦闘行為禁止と中立義務履行のために領海を明確化する必要が生じ、太政官布告により領海3海里と定め、同時に外国の軍艦及び商船の無害通航権を認めた。これ以降1977年(昭和52年)の領海12海里を定めた領海法の成立に至るまで領海3海里を維持した。
また、日本海軍では、平時の海洋秩序等に関する慣習国際法を明示するものとして、1885年(明治18年)に「外国派遣司令官艦長訓令」を、1898年(明治31年)には「軍艦外務令」を定めたのである。(注:別添「参考資料」参照)これは、日本海軍の軍艦が平時、外国の領海や公海上にある時に準拠すべき事項や軍艦としての不測事態対処要領を定めたものである。現在は、日本海軍の消滅と共に効力を失ってしまってはいるが、当時の慣習国際法に則って定めたものであり、現在の国連海洋法条約及びその他の慣習国際法に定める軍艦の権限等に関する規定と基本的に差異はない。
従ってここでは、軍艦の権限と義務をも含む国連海洋法条約に則って“軍艦の国際法”を概説してみたい。なお、国際法上は全く軍艦としての扱いを受ける「自衛艦」も当然、この条約及び国際慣習法を遵守する義務がある。
2. 国連海洋法条約の概要とその影響
(1) 海洋の区分
国際法上の海洋は、諸大洋及び諸大洋と海峡によって結ばれている海洋の全体であって、カスピ海、アラル海、死海などの内陸の海は含まれない。
国連海洋法条約は、内水、領海、接続水域、排他的経済水域、公海の5区分とし、インドネシアのような群島国家については、特別に群島水域を認めている。また、大陸棚と深海底についても規定している。
これらの各水域等の構成とそれぞれが有する沿岸国の権利は、別図の通りである。(24頁第1図及び25頁第2図)