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航空母艦は当面措くとしても、遠くない将来シーレーンを挟んで、北側の西沙諸島・永興島に本格的な航空基地、南側のミスチーフ礁にかなりの規模の海軍基地が出来上がることになる。香港とマカオの中国返還問題が解決され、ロシアとの国境問題が事実上解決された中国にとって、主権・領土問題で残された課題は台湾の統一、沿岸周辺海域の画定、その海域に所在する島嶼の領有権の解決である。その脈絡でロシアとの関係改善は、中国がもはや「北からの脅威」を考慮することなく海に進出することを可能にしている。

 

3:東シナ海に進出する中国

 

3.1.:積極的な東シナ海石油開発

 

?ケ小平政権になってからの1980年代の10年間に、東シナ海大陸棚の中国と日本との中間線の中国よりの海域では、すでに20ヵ所以上の地点で海底石油の試掘が実施され、平湖をはじめいくつかの油井で商業生産が始まろうとしている。(第3図参照)

東シナ海大陸棚で石油資源が最も豊富に埋蔵されているとみられている海域は、わが国と中国との中間線を挟んだ海域であり、どちらかといえば日本側の海域である。(第4図参照)わが国は東シナ海大陸棚に対して主権的権利を保有しており、その海底に埋蔵されている石油資源を開発する権利を保有している。また大陸棚上部海域に所在する生物資源を開発・利用する権利を持っている。しかしながら中国が「大陸棚自然延長論」に基づいて東シナ海の大陸棚は中国に主権的権利があると主張していることに加えて、この海域にはわが国の領土であるにもかかわらず、中国・台湾が領有権を主張している尖閣諸島が所在しており、さらに東シナ海大陸棚に対して台湾、韓国、北朝鮮が主権的権利を主張しているところから、この海域の領域画定、資源開発には大きな困難が予想される。

東シナ海の大陸棚に石油資源が埋蔵されていることが明らかとなったのは、国連極東経済委員会(ECAFE)の調査であり、これを契機としてそれまで関心のなかった中国や台湾、さらに韓国が尖閣諸島の領有権や大陸棚の主権的権利をにわかに主張するようになった。わが国は尖閣諸島の領有権問題に「触れない」との暗黙の了承で1972年9月に中国と国交を樹立したが、日中平和友好条約締結交渉中の1978年4月、大量の中国籍武装漁船が尖閣諸島海域を領海侵犯するという出来事が生起して両国関係が緊張したため、?ケ小平の提案により尖閣諸島の領有権問題は「棚上げ」された。わが国政府は尖閣諸島はわが国の領土であり、現実に実効支配しており、中国との間に領土問題は存在しないとの立場に立っているが、しかしながら中国は尖閣諸島が日本の領土であることも、日本が実効支配していることも認めたことは一度もなく、自国の領土であると主張している。

「棚上げ」は、日本側が尖閣諸島の領有権を画定しようとするのに対して、中国側はその時点でその問題を取り上げたくないところから生まれた。「棚上げ」は問題の解決を一時的に先に延ばすことであるから、いずれ「棚から降ろされる」時がくる。

 

 

 

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