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また、別の問題もある。貝類やタラとかカレイとかの底魚は、特定の漁場の中だけではなく、隣の漁場へ移動する。ある漁協で貝の稚魚を放して、大漁を期待したのだが、移動して隣の漁協へいってしまった。隣の漁協は何もしないのに豊漁で、放流した漁協は何も捕れなかったという話がある。これが隣国同志の領海や200海里専管水域の事件になると、国際問題に発展する。

とはいえ、栽培漁業とは魚介類の「ライフサイクル」を畜産のように人間がコントロールして生産を調整していく方法である。水産業もここまできてはじめて安定した技術の上に立脚することができるであろう。したがって、この方式の問題点を技術的に解決していくことが今後の課題である。

 

11. ハイテクの応用

 

水産業が直面している壁を破るためには、農業同様、ハイテクを応用することが考えられる。アルビン・トフラーの『第3の波』では21世紀に期待される技術はエレクトロニクス、バイオテクノロジー、海洋開発、宇宙開発ということになっている。

音波などで魚群を掴まえて根こそぎ捕ってしまうという話があるが、逆にいえば、人工衛星で魚群を捕り過ぎないように管理していくというエレクトロニクスや宇宙開発の使い方もあると思う。

一番大きい影響を与えると思われるのはバイオテクノロジーである。たとえば、バイオテクノロジーを使って、生きた動物の餌しか食べないという魚種を改良できないだろうか。それは蚕ですでに成功していることである。蚕は桑しか食わないが、それを改良して、いまでは他のものを食べるようになった。これは餌の供給面を非常に楽にした。魚もやはり遺伝子組替操作などで、植物性の、しかも陸上の植物をも食べるようなことを考えてもよいのではなかろうか。

もっとも、水産資源の利用としては、逆のことも考えられる。昆布などの海草を栽培して、家畜の飼料にすることである。

それから、回遊魚の問題でも工夫の余地がある。サケのように故郷に戻ってくる遺伝子をいろいろな魚介類に組み込んで、全部日本に戻ってくるようにできないだろうか。もちろんこれは国際共存に反する問題だから、あまり意地汚くやる必要はないが、魚の回遊性とか定着性の遺伝子を組み込んで、ニーズに合ったものにしていくということは考えてもよいのではないか。

また、暖流と寒流で住む魚が違うが、寒流の遺伝子を暖流の魚に組み込むとか、その逆をやっていくとか、そういうことによって、この海域はこれしかとれないという状況ではなくて、寒流で捕れる暖流の魚というようなことも将来的には考えられるかもしれない。

これは遺伝子組替操作ではなくて細胞融合だが、ミカンは暖かいところでしか採れない。だからそれをカラタチと組み合わせて、寒い所でもミカンを採れるようにする。これはオレンジとカラタチだからオレタチと呼ぼうというような冗談ではなく、本当の話しをしているから、いまに水産業でも同じような開発が出てくるかもしれない。

 

 

 

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